過去最多「わいせつ教師」を“排除”できる仕組みへ 犯歴を照会可能にする法改正
小児性愛の2類型
性犯罪者の治療に携わる、筑波大学の原田隆之教授(犯罪心理学)が後を受ける。
「15年度の犯罪白書によると、小児わいせつ型の5年以内再犯率は9・5%です。成人女性への単独強姦型の再犯率が3・6%であることなどに比べると深刻な数字です」
そこで大事になってくるのは再犯防止対策である。
「性犯罪はお酒や薬物の依存症と同じで、二度とやらないと心から誓っても、目の前に対象が現れると、どうしても意志が本能に負けてしまう傾向がある。痴漢や盗撮も含めて、性犯罪者の治療で重要なのは欲望のトリガーを引かせないこと。つまり再犯を起こしてしまう環境を作らない。一例として、痴漢であれば満員電車に乗らないようにし、盗撮であれば携帯のカメラレンズを割っておくようにしなければなりません」(同)
そう考えれば、わいせつ教員に必要な措置は自ずと浮かび上がってくる。
「誘惑が多い環境、わいせつ教員であれば子どもがいる学校という職場に戻すことが危険なのは明白です」(同)
また次に紹介する、NPO法人「性犯罪加害者の処遇制度を考える会」の代表理事で精神科医の福井裕輝氏の見解も同様で、説得力を持って我々の胸に響く。
「私は、性犯罪の加害者治療に携わる精神科医として、加害者の人権を考慮し、社会復帰を支援する立場にあります。しかしながら、教員や保育者が子どもにわいせつ行為をした場合に関して言えば、以前と同じ職場に戻すことには絶対に反対です。圧倒的に弱い立場の子どもたちが、教室などの閉ざされた空間にいる。そうした環境に、再犯リスクの高い性犯罪加害者を戻すことが危険であるのは明らかだからです」
そのため海外では厳しい対策が取られていて、
「英国では、子どもへの性犯罪に限らず性犯罪全般の前科者が、教員はもちろん、スクールバスの運転手など、学校に関わるあらゆる仕事に就くことができないシステムになっています」(同)
さらに福井氏は、
「小児性愛を含めた性嗜好自体は善悪で語られるべきものではありません。子どもへの性的関心があるからといって、何も実行には移さず一生を終える人は大勢います」
こう前置きした上で、わいせつ教員等の治療の難しさについて続ける。
「小児性愛者は『純粋型』と『非純粋型』の2種類に分けられます。前者は子どもにしか性的興味が湧かない人で、後者は子どもにも成人にも性的関心を覚える人です。前者の場合は先天的な性嗜好であり、治療によって変えることはできません。後者はコミュニケーション力不足などで成人に相手にされないために、抵抗しない子どもを性的対象にするといったケースがあり、こちらは治療によって子どもへの性的関心がなくなることがあります」
その治療法はというと、
「薬物療法と認知行動療法の2本立てです。前者は男性ホルモンを抑制する薬を投与して性欲を下げていくもので、目に見えて効果が期待できます。しかし対症療法に過ぎず、経済的、肉体的負担を考えると、一生続けていくのは難しい面があります」(同)
そして後者は、
「認知の歪みを矯正するもので、犯罪に至るまでの流れを客観的に認識させた上で、それを断ち切らせる。例えば、子どもが集まる公園には絶対に近づかないようにさせ、その上で、被害者である子どもたちはそこまで嫌がっていないのではないか、というような歪んだ認知を矯正していきます。こうした治療を長い時間かけて行うことで、子どもへの性的関心自体をなくせる場合もある。しかし残念ながら、そこにまで至るのは容易なことではありません。正直、再犯のリスクは高いと言えるでしょう」(同)
性犯罪を起こす自由を保障
とどのつまり、性犯罪者の治療に携わる専門家が、声を揃えて「再犯リスク」を訴えているわけだ。無犯罪証明書等の制度導入が、加害者の人権を盾に阻害されることがあってはならないのは自明の理と言えよう。
性犯罪被害に詳しい上谷さくら弁護士は、再犯リスクの高さに加え、こんな指摘をする。
「子どもへの性犯罪は、被害者が幼いためにどうしても証拠が弱く、検挙に至るケースが少ない。さらに、ようやく検挙されたと思ったら、その背後には何十件という余罪が見過ごされてきたといった例が非常に多い。表に出ている数字は氷山の一角と言えると思います」
そして今回の要望書に関しては、教員や保育士に留まらず、無資格でなれるベビーシッターについても言及していることに着目する。
「『そんなところに預けるなんてけしからん』『母親がきちんと子どもの面倒を見るべきだ』――ベビーシッターに子どもを見てもらうことには、未だにこのような偏見があり、そのため資格や登録制度を設けようとしても反対論が起きることが懸念されます。しかし、共働きや単親家庭が当たり前の時代ですから、ベビーシッターは非常に重要な仕事であり、現実的にまだまだ需要は増えていくでしょう。当然、最低限の公の資格を設けるといった措置が必要であり、その上で、無犯罪証明書で性犯罪の過去がある人間を排除する仕組みなどが求められます」
現に今年4月と6月、ベビーシッター仲介業者「キッズライン」登録の男性シッターが相次いで子どもへのわいせつ行為で逮捕され、世の親たちを慄然とさせた。
上谷氏が改めて断じる。
「無犯罪証明書と職業選択の自由の兼ね合いについて、私は問題ないと考えます。なぜなら、性犯罪者に教育現場などの同じ職場に復帰する資格を与えることは、再び性犯罪を起こす自由を保障することに等しいからです。子どもと直接、関わらない仕事は他にいくらでもあり、それらを選ぶ自由は制限されません」
この期に及んで「エロ教員」の職業選択の自由を優先する「人権派」がいるとしたら……。
前出の大竹さんがシンプルな一言で締めくくる。
「わいせつ被害に遭った子どもの親として、そして一保護者として、危ない教員は子どもに近づけないでほしい。ただそれだけです」
わいせつ教員が、「餌食」である子どもたちが集(つど)う教育現場へと舞い戻ってくる……。そんな権利を、人権とは呼ばない。
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