過去最多「わいせつ教師」を“排除”できる仕組みへ 犯歴を照会可能にする法改正 

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 公立小中学校などでわいせつ行為を理由に処分を受けた教員は、2018年度で282人に上り、過去最多を記録した。そんな中、12月2日、性犯罪歴のある教員のデータをチェックできるシステムの創設を求める要望書を有志議員らが法務大臣に提出。いたいけな子どもたちを守るために我々ができることは――。

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 今、我が子、我が孫が危ない――。

いまだに未成年犯罪者が少年法で手厚く保護されるなど、加害者の人権が重視される日本。

 その最たる被害者は、いたいけな子どもたちだ。「エロ教員」に虐(しいた)げられ続けてきた社会的弱者である彼らに、ようやく救いの手が差し伸べられようとしている。

〈保育教育従事者が「無犯罪証明書」を取得できる仕組み「日本版DBS(Disclosure and Barring Service)」の創設を求めます〉

 12月2日、こう題された要望書を、自民党の野田聖子幹事長代行ら有志議員が上川陽子法相に提出した。

 要望書の内容を続けると、

〈現状ではこういった被害(注・子どもが教育現場などで受ける性被害)を未然に防ぐ仕組みがありません。子ども達のための保育・教育現場があろうことか性犯罪の温床になっています〉

 そこで、英国にあるDBS(前歴開示及び前歴者就業制限機構)を参考にして、

〈保育教育現場への就労前に犯罪歴をチェックし、保育教育従事希望者に無犯罪証明書を発行する機能を新たに実装することが必要です。これを「日本版DBS」と呼び、仕組みの導入と国による日本版DBSの運営を求めます〉

 一言で言えば、性犯罪歴のあるわいせつ教員らを、教育や保育の現場に二度と近づけないようにする仕組みを目指そうというのだ。

 至極当然である。

 要望書を提出した有志議員のひとりである三原じゅん子参院議員が、改めてその意図を説明する。

「これまで日本では、わいせつ教員の問題が軽視されすぎていました。再犯リスクなども考慮すれば、もはや放置しておくわけにはいきません。対策は急ぐべきであり、来年の通常国会での立法を目指しています」

 この当たり前に思える無犯罪証明書の制度すら、今まで俎上に載らなかったほど、日本ではわいせつ教員が「野放し」にされてきたということになる。

教員免許法

「ここ数年、教育現場での性被害の問題が深刻化しています」

 と、教育問題に詳しいジャーナリストが解説する。

「その『元凶』とも言えるのが教員免許法です。この法律では、わいせつ行為などで懲戒免職になり免許を失った教員でも、3年後には免許を再取得できることが定められています。つまり、一度処分されたわいせつ教員でも、3年経てば何食わぬ顔でまた教育現場に復帰できるシステムが担保されているわけです」

「エロ教員の人権」まで保障する教員免許法が施行されたのは1949年。まさに「戦後」の遺物である。その結果、

「公立小中高校などでわいせつ行為を理由に処分を受けた教員は、2018年度で282人に上り、過去最多を記録しました。10年前の1・7倍に増えています。しかも、加害教員が処分を受ける前に依願退職した例などもあり、これらは把握しきれないため、教育現場での子どもの性被害の実数はその数倍、数十倍である可能性があります」

 ちなみに読売新聞の調査によると、2019年度までの5年間にわいせつ行為などで懲戒処分を受けた公立学校の教員のうち、約半数が被害生徒らとSNSなどで私的なやり取りをしていたという。SNSの「悪用」の実態が垣間見える。

 このような「わいせつ教員天国」と化している現実に抗すべく、教員を採用する各都道府県教育委員会側に与えられていたほとんど唯一の「武器」は官報だった。懲戒免職処分を受け教員免許を失った教員に関しては、その旨を官報に記載することが、やはり教員免許法で義務付けられている。しかし、この「官報対応」も不備が指摘されてきた。

 まず、文科省は18年から懲戒処分歴が閲覧できる「官報情報検索ツール」を作成し、参考情報として各教育委員会への提供を始めたのだが、処分歴は過去3年分しか閲覧できない。来年2月からは閲覧期間が40年分に拡大されるが、いかにわいせつ教員が「甘やかされてきた」かが分かる。

 次に、懲戒免職の処分歴は分かっても、その「理由」が記されていない点である。これでは、わいせつ行為でクビになったのか、学校の金に手をつけてクビになったのかが分からない。つまり、官報を見ただけではわいせつ教員かどうかを見抜けないのだ。

 さらに、わいせつ行為によって懲戒免職処分を受けていたのに、教員免許失効の情報が官報に記載されていなかった例まで存在する。

「2013年に男性教員によるわいせつ行為を受けた女子中学生が、翌年自殺してしまう痛ましい事件が沖縄県で起きました。当然、男性教員は懲戒免職処分を受けて免許失効となりましたが、その情報が官報に記載されていなかった事例が判明しています」(同)

 こうしてわいせつ教員が「放置」されてきた状況に、今回の要望書はひとつの楔(くさび)を打ち込む試みと言えよう。

「無犯罪証明書の制度については、ぜひやるべきことであり、早急に進めていただければと思います」

 こう賛同の声をあげるのは、「全国学校ハラスメント被害者連絡会」で共同代表を務める郡司真子さんだ。同連絡会では、わいせつ行為で懲戒免職処分を受けた教員に免許を再交付しないよう求め、今年9月、文科省に約5万4千人分の署名を提出している。

「今回、画期的だと感じたのは、法務省に要望書を提出した点です。なぜなら、刑事上の観点から縦割り行政の壁を越えて一括的な対応を法務省に求めているからです。学校なら文科省、保育園は厚労省、ベビーシッターは内閣府や経産省といった具合に、対応する役所が分かれています。その枠外にある法務省が刑事事件、つまり過去に性犯罪歴があるか否かという視点から、網羅的にわいせつ教員らを子どもたちに近づけないようにする取り組みであり、評価できると感じたのです」(同)

 他方、無犯罪証明書の制度が実現すると、前科のあるわいせつ教員は教育現場に戻れず、憲法で保障された職業選択の自由に抵触するとの指摘もある。しかし、

「被害者である子どもたちは、性暴力を受けたその時だけでなく、発達性トラウマ障害になるなど将来にわたり心身に深刻な傷を受けてしまいます。このように、子どもへのわいせつ行為は、被害者の人権が極めて大きく損なわれる重大な犯罪です。それなのに、加害者の人権にばかり気を遣い、職業選択の自由を尊重するのは不公平です」(同)

 先の連絡会のもうひとりの共同代表であり、自身の娘さんが小5の時に教員からわいせつ行為を受け、不登校になってしまったという大竹宏美さんも、

「子どもは先生を信じていたり、怖いから先生の言うことをきかなければいけなかったりと、極めて弱い立場にあります。教員に狙われたら子どもは逃げ出すことができず、教員による子どもへのわいせつ行為は非常に悪質です」

 として、こう続ける。

「わいせつ教員や保育者は、その性犯罪が事件化し、たとえ罪を償ったとしても、性癖が矯正されていなければ教育や保育の現場に立つ資質に著(いちじる)しく欠けていると言わざるを得ず、再犯リスクが高いのは明らかです。職業選択の自由と言いますが、資質が欠けている仕事にまで無条件で就(つ)けるという意味ではないはずです。横領で捕まったことがある人を、企業は出納係として採用しますか? それと同じことだと思います」

 そして現に、子どもに対する性犯罪の再犯率は高い。

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