昭和歌謡曲は「今なら炎上」の歌詞ばかり 当時の曲を聴いてみると――(中川淳一郎)
もしも、歌謡曲の「3年目の浮気」(ヒロシ&キーボー・1982年)と「ホテル」(立花淳一・1984年)が2020年の新曲だったら──。ツイッターで炎上し、「炎上ウオッチメディア」がこぞって記事にしてこの2つの曲を販売中止に追い込んだことでしょう。
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以前書きましたが、「マルちゃん正麺」のツイッターPR漫画の最後のコマで、ラーメンを食べていない母親が皿洗いをし、夫が皿を拭いているだけで、「なぜ食べた自分が皿を洗わない!」と叩かれる時代ですから。そして、たいした数の批判でもないのに、メディアが「批判が寄せられている」と「炎上」を演出し、企業が謝罪してその表現は闇に葬られる。ちなみに「マルちゃん正麺」はPR漫画を削除せず、続編を公開したのは立派です。
で、冒頭の2曲ですよ。1つ目は夫婦かどうかは不明ですが、浮気がバレた男が同居する女に「オレみたいなモテ男にホレるお前が悪い」と女のせいにして、「もう3年も一緒にいるんだから浮気くらいは大目に見てくれないかな、てへっ!」と正当化するというもの。
2つ目は、妻子ある男にホレた女がその男と会えるのはホテルだけで、手紙を書いても電話をかけても叱られる、というところから始まる。そして、自分の電話番号は手帳に男の名前で書かれてカムフラージュされていたことや、休日に家をコッソリ見に行ったことを独白し、その男の肌に爪を立てたい、と願望を歌う。
いずれも「女を性のはけ口としてしか見ていない身勝手な男」「耐え忍ぶ女」という内容です。これらの曲がヒットしていた時、私は小学生だったので意味がよく分からなかったのですが、今はよく分かる。まぁ、今の時代、こんな歌詞はアウトでしょう。しかも、驚いたのが、「ホテル」の作詞者が、戦争反対と護憲を訴えるリベラル派のなかにし礼氏だったことです。「男のスケベな妄想を描きたかった」のかもしれませんが、その歌詞は「男の不倫がバレないよう、不倫相手の女は黙ってな」と強制しているとも言えるわけです。
ならば「ホテル」を2020年風に変えた場合、どうなるか。家族ある年上女にホレた独身の若い男が、募る恋心と相手の夫への憎しみを切々と訴えればいいのでは? 一瞬こう考えましたがこれはダメでしょう。
なにしろ、「不倫」がそもそもダメなので、もはや不倫の歌は作れない。「ホテル」をテーマにするんだったらこんな歌詞になる。
「今日も恵比寿のシティホテルのラウンジでキミとパンケーキ♪ スイーツ仲間に性別なんて関係ない♪ 一流ホテルのパンケーキ、どうして誰をも幸せにするの~♪ ほっぺにクリームつけた僕に『がっつかないの!』とキミはお説教♪ やっぱホテルはスイーツ好きの聖地なのさ♪」
1980年代の時代背景では2つの曲は普通に認められていたのかもしれませんが、今や昭和の歌謡曲は炎上の「火薬庫」です。紅白歌合戦に演歌歌手の出場組数が減っているのと関係あるのかなぁ? 紅白を“卒業”した細川たかしにしても「北酒場」では勝手に男が女を値踏みし、北の酒場では女が男になびくぜベイベー!と、これまたマッチョですもんね。