疑問と疑惑だらけ「コロナ対策補正・来年度予算」一体編成の中身

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 政府は12月8日、新たな経済対策を決定した。その財源となる2020年度第3次補正予算案についても、12月15日に閣議決定した。

 新型コロナウイルス禍で、しかも年度末まで残り僅かなこの時期に打ち出された経済対策と補正予算だけに、いくつかの問題点・疑問点が浮かび上がる。

経済に偏った「対策」

 新たな経済対策「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」の主な項目は、表1のようになっている。

 中核をなす3つの柱である、

(1)新型コロナウイルス感染症の拡大防止策

(2)ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現

(3)防災・減災、国土強靱化の推進

 など、安全・安心の確保については、4月に策定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策~国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ~」とほとんど変更はない。

 一方で、具体的な項目では、上記(2)の中に「グリーン社会の実現」が盛り込まれ、大きな比重を占めていること。菅義偉首相が打ち出した「2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロ」という政府目標が、強く反映されたものとなっている。

 筆者が大きな違和感を覚えたのは、この経済対策全体を「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」と銘打っている点だ。

 今回の経済対策には、その考え方について、

「政府としては、国民の命と暮らしを守る、そのために雇用を維持し、経済を回復させ、新たな成長の突破口を切り開くべく、新たに本経済対策を策定する」

 と記されている。

 それにもかかわらず、重点が新型コロナ対策と新型コロナ禍にある国民の命と暮らしを守ることよりも、ポストコロナに向けた経済に大きく偏っている点だ。はっきり言ってしまえば、新経済対策のネーミングは“看板に偽りあり”ということだ。

中長期政策まで盛り込んだ補正予算

 この点は、表2の経済対策の規模からも見て取れる。

 新型コロナの拡大防止策に割り当てられる予算は5.9兆円にとどまっている一方、経済構造の転換・好循環の実現には、約3倍の18.4兆円が投入される。

 国民の命と暮らしを守る具体策では、経済構造の転換・好循環の実現の中に、「地域・社会・雇用における民需主導の好循環の実現」として、

(1)感染症の影響により生活に困窮する世帯に対して、緊急小口資金・総合支援資金の特例措置の申請期限を来年3月末まで延長

(2)年内を目途にひとり親世帯臨時特別給付金(基本給付)の再支給

 が盛り込まれている。

 しかし、「雇用調整助成金」の特例措置は来年2月末まで延長の上、3月以降は段階的に縮減していく方針であり、政府がGo Toトラベルを一時中止せざるを得ないほど新型コロナの感染が拡大している現状を考えれば、雇用調整助成金の特例措置や緊急小口資金・総合支援資金の特例措置などを来年2~3月で終了するほうが、国民の命と暮らしを危機に陥れることになるのではないだろうか。

 そもそも疑問なのは、当初、経済対策の規模を40兆円程度で検討したことだ。自民党の下村博文政調会長などが、7~9月期のGDP(国内総生産)需給ギャップがマイナス34兆円だったことから、

「それを埋めるような近い額で大型補正を組んでほしい」

 と要請したという報道がある。

 しかし、GDPの需給ギャップはあくまでも試算値であり、正確なものではない。まして、7~9月期のGDP需給ギャップは過去のものであり、第3次補正予算は来年1月18日に召集される通常国会で審議されることから、今回の経済対策や第3次補正予算が執行される来年2月以降には、状況が大きく変わっている可能性がある。結果的には、経済対策の規模は約20兆円となった。

 政府は、経済対策の効果を実質GDP換算で3.6%程度の押し上げ効果があるとしているが、GDP需給ギャップを埋めることが必ずしも「国民の命と暮らしを守る」ことにつながるわけではない。

 今やるべきことは、新型コロナ感染拡大の防止策と、国民の命と暮らしを守る支援策にあることは“明々白々”だ。

 第3次補正予算で新型コロナの拡大防止策に割り当てられる予算額は5.9兆円程度であり、第2次補正予算で計上した10兆円の予備費が6.9兆円も残っているため、これを使えば、少なくとも新たな経済対策や補正予算を組まなくても事足りたはずだ。

 政府は、第3次補正予算を「15カ月予算」として、2021年度当初予算と一体的に編成する。

 繰り返しになるが、予算が成立して経済対策が実行されるのは早くても2月以降になるわけで、敢えてこの時期に第3次補正予算を編成して15カ月予算の考え方で2021年度予算と一体編成する必要性はまったくない。

 たとえば、菅首相の“肝いり”である「グリーン社会の実現」をはじめとする経済構造の転換・好循環の実現は、次世代の国のあり方や方向性を示す中長期的な政策であり、緊急性の高いものではない。すなわち、無理に補正予算に盛り込むのではなく、年度予算である2021年度予算に計上し、しっかりと審議を行うべきだろう。

 穿った見方をすれば、第3次補正予算を編成し、さらに15カ月予算として2021年度予算と一体編成を行う理由は、緊急性のない中長期の政策まで経済対策に盛り込み、補正予算として出す方が“審議が甘く”なり、これらの政策が通りやすいことを狙ったとしか思えないのだ。

 12月12日、70カ国以上の首脳らがオンラインで集った「国連気候サミット」が開かれ、菅首相も「グリーン社会の実現」を宣言した。つまり、国際的に公約した。「国民の命と暮らしを守る」ための予算を自らの面子のために犠牲にしているとも見え、なんとも姑息極まりない。

国債依存度は過去最高に

 最後に財政を見てみよう。表3が2020年度の補正予算を含めた予算規模だ。

 一般会計は、当初予算の102.7兆円から3度の補正予算編成を経て175.5兆円となった。経済対策関係経費のみであれば179.5兆円まで膨れ上がるが、地方交付税交付金の減額や第2次補正予算で計上した新型コロナウイルス感染症対策予備費の減額などで、175.5兆円に減額されている。このうち補正予算分は76.8兆円にのぼる。

 年度の新規国債発行額は112.6兆円と、ついに史上初めて100兆円(補正予算分は80.0兆円)を突破する。このうち特例国債(赤字国債)は89.9兆円(補正予算分は64.5兆円)を占める。

 第3次補正予算の一般会計が19.2兆円に対して、新規国債発行額が22.4兆円にのぼるのは、2020年度の税収見通しが当初よりも8.3兆円下振れして55.1兆円にとどまることで、特例国債(赤字国債)の発行に頼らざるを得なくなったためだ。この結果、国債依存度(歳入に占める国債の割合)は初めて60%を超え、64.1%に上昇した。まさに“借金にどっぷり浸かった状態”となっている。

 国債には「60年償還ルール」がある。このルールは、償還期限を迎えた国債の借り換えを行う「借換債」の発行を繰り返しながら、徐々に元本の返済を進め、最終的には必ず60年で全額償還を行わなければならないというものだ。

 経済対策に盛り込まれた新型コロナ対策や国民の命と暮らしを守るための政策以外の、中長期的な政策を補正予算で手当てすることは、本当に妥当だったのだろうか。

 中長期的な政策については、本当に「いま」必要なものなのかを厳しく審議する必要がある。

 財政の現状を考えれば、発行された国債のほとんどは、子や孫の世代が60年をかけて返済していくことになるのだから。

鷲尾香一
金融ジャーナリスト。本名は鈴木透。元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。

Foresight 2020年12月18日掲載

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