「THE W」の陰の立役者 水卜アナウンサーが見せた民放女子アナ頂点としての「あざとさ」

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 女性芸人の頂点を決める「THE W」。今年は人力舎のピン芸人、吉住さんが栄冠を手にした。おめでとうございます。奇妙な世界観にひきずりこむ演技力で納得の優勝だった。先輩・渡部さんの不倫で大揺れだった事務所も、嬉しいニュースにほっとしたことだろう。

 2017年に開始した時は、お笑い番組なのに全く笑えないという酷評もあふれた「THE W」。翌年もゲストの滝沢カレンさんの方がよほど面白いと言われたほどだ。参加者側の気負いもあっただろうが、確かに物足りなさはうかがえた。司会を務めていたチュートリアル徳井さんが脱税騒ぎで謹慎するなど、番組の抱える課題は多かったに違いない。

 しかし吉住さんを見ればわかるように、参加者のレベルは上がってきた。審査員も芸人だけに絞り、バラエティではなくお笑いコンテストとしての色も強まっている。そして今回改めて感じたのは、進行役の水卜麻美アナウンサーの貢献も大きかったのではないかということだ。

 コロナの影響で、スタジオ観覧できる視聴者も大幅に絞られた今年。お笑いコンテストなのに、笑い声が少ないのは、出る側も見る側も気持ちがしゅんとなる。それは審査員も同じだっただろう。楽しむというよりは審査することに集中しようと、なんとなくコメントも堅くて控えめ。その道のプロが笑ってしまうネタは面白いもの、レベルが高いもの、と視聴者を誘導するのを避けたかったのもあるだろう。モノマネ番組とかでありがちな、ネタ中に大笑いしている審査員を映すカメラワークもなかった。笑顔の少ない張り詰めた空気の中、先陣を切って笑うのは気が引ける。でも水卜アナは笑うのである。それも絶妙のさじ加減で。

 渾身の変顔、大声のツッコミ。ここが笑うところですよ、と芸人たちは全身で示す。でも、今ひとつ面白くないことはザラにある。序盤でスベると余計に空回りすることも多い。「これで笑うなんてレベルが低い」「わざとらしい」、そう批判する声も上がるだろう。そんな画面に、水卜アナの「ふふっ」と笑い声が入るのである。お愛想という感じでもなく、つい笑いが漏れてしまったというかのような音量で。彼女の顔は映らない。でも「ふふっ」が呼び水となって、会場のお客さんも気楽に笑える空気が徐々にできていく。その和やかな雰囲気は、ネタ中の芸人にも、出番を控える出場者にも、真剣に審査に悩む審査員にもありがたかっただろうと思うのだ。

よく比較されるカトパンとの共通点と違い 本当に「あざとい」のはどっち?

 似たような話を、若槻千夏さんも語っていた。人気女子アナの共通点は、話を聞きながら声を出さずに笑ってくれることだと。大声で笑われても邪魔だが、ノーリアクションでもやりにくい。そのバランスが上手なのが、水卜さんとカトパンこと加藤綾子アナだという。

 思い出したのが、「とんねるずのみなさんのおかげでした」での「2億4千万のものまねメドレー選手権」の時のカトパンである。画面の外で笑ってしまった姿を、バナナマンの設楽さんが「加藤さん、思わず笑ってましたけど」とこれまた上手く拾い上げた。それで出場者のモノマネが再びクローズアップされ、スタジオは大爆笑。同コーナーはさまざまなフジテレビの女子アナが進行役を務めたが、こうした流れを見たのはカトパンだけのように感じる。

 ただ水卜アナとの違いは、自身の見え方に無自覚すぎたことかもしれない。素直に笑える無邪気さは、さんまさんや石橋貴明さんなど大物からの寵愛も引き出した。それが画面越しに伝わりすぎていることに、彼女はいつ気づいただろうか。ホステスのようであざとい、と批判もされるようになった。でも、計算すらしていなかったのではないか。何も考えず、華やかな見た目も含めた天性の愛され力にただ頼っていただけのように見える。

 そういう意味では、水卜アナの方がもしかすると「あざとい」のかもしれない。親しみやすい容姿や、食いしん坊キャラを貫く。衣装も露出が少なく地味なものが多いし、恋愛スキャンダルもほぼ出ない。共演者となれ合い過ぎず、さりげなく盛り上げる番組進行。女子アナはあくまで添え物、タレントが主役。そして何より、視聴者のために。そういうプロ意識を徹底して、自分の見え方・見せ方を常に考えているのだろう。

 今回は「誘い笑い」というファインプレーを見せた水卜アナ。フリー転身も毎度のようにささやかれる彼女だが、タレントとは一線を引いた脇役の自覚こそが人気の秘訣だと、本人が誰よりわかっているはずだ。「THE W」が終わった今も、笑いが止まらないに違いない。

冨士海ネコ

2020年12月18日掲載

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