セがDH制導入案を見送り、原因は他球団の巨人アレルギーか【柴田勲のセブンアイズ】
巨人が来季のDH制暫定導入を提案したところ、セ・リーグの他球団からは従来の慎重論が根強く、来季の導入は見送られる方向だという。
私は、DH制導入のデメリットはほとんどないし「導入には賛成」である。
今季はコロナ禍に見舞われた1年で過密日程だった。セ・リーグで故障した投手は41人だったものの、DH制採用のパ・リーグは30人、やはり投手が打席に立つことの打撃面と走塁機会の負担が関係した可能性があるだろう。
コロナ禍は収束の気配を見せず、来季の開催や日程もどうなるか予断を許さない。まずは来季をどう乗り切るかに備えてだったのではないか。
DH制を導入すれば、投手の負担が軽くなるし、切れ目のない打線に集中できる。レベルアップになる。さらに多くの野手に出場機会を与えることになる。打力のあるベテランも歓迎で、選手寿命を延ばすことにもつながる。
投打に相乗効果が見込める。
野球ファンからすれば、「なぜあそこで投手を代えた」とか、「なぜ続投させた」とか監督采配への楽しみを奪うことになるけど、メリットの方が大きいのではと考える。
原辰徳監督は日本シリーズ前に「レギュラーが9人から10人になれば教育的だ。DH制があれば野球人口も増える」と導入を提案していた。だからこそ、今年の日本シリーズで全試合DH制採用に踏み切ったのだろう。
だが、巨人がセ・リーグ理事会で提案した導入案は「今後も議論する」として一蹴されてしまった。
他の球団も検討できる導入案だと思うが見送りだ。勘ぐってみれば、これは根底に「巨人アレルギー」があると推察する。
巨人はこれまで球界改革案を主導してきたがその背景には資金力があった。フリーエージェント制導入も先頭に立った。
DH制となれば資金力がある球団が有利となる。例えば、ソフトバンクは昨年、ヤクルトからウラディミール・バレンティン外野手を獲得した。年俸は5億円(推定)と聞く。
ソフトバンクにすれば、守るところはないがうまくいって30本~35本打ってくれないかな、という「博打」の意味合いが強かったと推察する。今季の成績は60試合に出場して打率.168、9本塁打、打点22と振るわなかったものの、資金力のある同球団にとっては仕方ないなというところだろう。
かようにDH制導入となれば資金力の有る球団、つまり巨人には有利だ。他球団から高額な打力のある選手を獲得できる。
一方、他球団にとっては人件費1人分が余計にかかる。しかも億の金がかかる。今年のコロナ禍で収入にも影響があったろう。そうそう簡単に首をタテに振れない。
セの理事会ではDH制導入と投手のケガ・負担軽減の因果関係に疑問の声が上がったというが、声に出さずとも、「巨人アレルギー」があったと見る。
巨人は日本シリーズにおいて2年連続でソフトバンクに4連敗を喫した。ソフトバンクに投打で圧倒されたが、原因の一つにDH制の有無を挙げる向きもある。
私、今年の場合、これは関係ないと思う。前にも記したが、シリーズまでの両チームの勢いの差が明暗を分ける大きな要因だったと振り返っている。
いずれにせよ、セ・リーグは日本シリーズで、パ・リーグに8年連続で敗れている。この事実の前にセ・リーグもDH制導入の検討とともに何らかの手を打つ必要に迫られているのかもしれない。
巨人がDeNAから国内フリーエージェント権を行使した梶谷隆幸外野手(32)と井納翔一投手(34)を獲得した。
原監督は早くも梶谷を「1番」で起用するプランを明かしたが、確かに守備もいいし足もある。おそらく右翼で使うことになるだろう。今季、キャリアハイの成績を収めたものの、ケガが多いのが気になる。
年俸は4年総額8億円(推定)だという。巨人も松原聖弥ら若手が育っているが、その中で力を発揮できるかどうか。
また井納は2年総額2億円(推定)とか。今季は17試合に登板して6勝7敗だった。もちろん、メジャー挑戦を明らかにしている菅野智之投手が抜けた後の補強として期待されている。巨人打線をバックに何勝できるか。DeNAも打線はよかった。まずは勝ち負けを逆転することだ。
まあ、巨人にとって二人の獲得は「保険」の一環だろう。
最後になるが、川上(哲治)さんが存命していたら、原監督のDH制導入案をどう思ったろう。私は川上さんから直接、DH制の是非を聞いたことがないが、おそらく川上さんは賛成したと思っている。V9当時といまは取り巻く環境が違う。川上さん、非常に柔軟な思考の持ち主だった。懐かしく思い出し、ついつい、こんなことを想像した。