「波瑠」「松下洸平」が演じたコロナ禍で「恋はどうなるの?」

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新しい生活様式も

「とんこつラーメン」と例えられたのは、昭和の香りをより濃厚に引きずる営業部の岬。演じるのは渡辺大。

 体育会系の営業手法しか持たず、しかも親や家族と同居しているため、リモートワークで最もストレスをためこんでいる役柄だ。

 コロナ禍でリモートワークに移行できるのは大手企業とホワイトカラーのみという恨み節も、くすぶっている渡辺の存在が多少やわらげた気もする。

 そして「回転寿司」と例えられたのが、新人看護師の八木原。居酒屋の娘(福地桃子)と付き合うイマドキのバカップルであり、波瑠の恋のサポーターであり、物語の語り部と、八面六臂の活躍をする役を髙橋優斗が演じている。

 22歳の若者がおせっかいをやくというのも、新しい生活様式だな。

 だいたい恋愛指南は年上や経験者が訳知り顔でするものだが、このドラマでは若いバカップルが既成概念や世間体を取っ払って、感情を優先する恋を説く。

 髙橋と福地が「可愛いぞ、コノヤロー」とイチャコラするのが、腹立たしくもあり、頼もしくもあり。なんというか、存在がYouTuberのフワちゃんっぽい。

 イラッとするけど、何者にも媚びず、我が道をいく感じが新鮮で頼もしい。

 波瑠と松下の濃厚接触はどうなる? 咬ませ犬の間宮はどうする? 

 この3人が展開するメインの恋模様を描きながらも、決して恋愛至上主義を礼賛しているわけではない。

数年後に「マスクドラマ」として

 人との心地いい距離感や関係性の在り方を、劇中でさらっとしれっと吐き続けているのが、嘱託医・富近だ。演じるのは、実力にようやく人気と知名度が肩を並べた江口のりこ。

 そもそも波瑠にSNS(ゲーム)を勧めたのも江口だ。

 さりげなく周囲に気を配り、エール&フォローもするが、強要や強制ではなく相手に選択肢を与える物言いはさすが精神科医、と思わせる。

「好き」の定義を穴にたとえたシーンは、思わず膝打っちゃったよ。そんな江口がさりげなくミッチーにアプローチ。そう、ここにも恋が芽生えつつあるので、見逃せないわけだ。

 このドラマ、意地悪く簡潔に説明しちゃうと、「大手企業の中の社内恋愛」で「勘違いと考えすぎで遅々として進まぬ恋模様」である。

 この文言だけ見ると、私が苦手な部類のはずなのに、じわじわと染み込んでくる。

「恋はどうなる?」の答えを出すのに、登場人物たちがしっかり悩んで、きっちり主張しあっているからだな。

 傲慢に見えるが案外単純な波瑠と、純朴に見えるが意外と頑固な松下には、ある意味「鈍感」という共通項がある。

 お互いの気持ちを踏みにじったり、下に見たりしないのが心地よい。

 恋愛におけるSNSの存在意義も、納得のいく丁重な扱いだ。

 感覚や考え方で、年代による温度差が出がちな部分を、対立ではなく共存共栄にもっていく描き方は見事だと思う。

 で、今、調べてみて驚いたのだが、視聴率は低い。

 でも、あと2回の放送を心待ちにしている人や、コロナが終息した数年後に「マスクドラマ」としてこの作品を思い出す人が確実にいるはず。

 数字よりも記憶に残ったほうが勝ちだと思うんですわ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月16日掲載

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