終了が悲しすぎる「共演NG」 ドラマ業界の本音と実情、もっと見たかった!

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 今、私は慌てている。12月下旬まで放送すると思っていたテレ東の「共演NG」が全6回で終わると知ったから。「次週最終回」の文言を二度見しちゃったよ。そしてこのコラムは最終回を観ずに書き、最終回放送後に載るという間抜けさ。ドラマでドラマ制作の舞台裏を描くという面白さ。芸能界の暗黙の了解というか、不文律の「共演NG」をお題に据えた新奇性。それがたった6回で終了って! 野球ですら9回あるのに!

 舞台はテレビ東洋という局のドラマ制作の現場。深夜枠ではそこそこ話題作を輩出してきたものの、ゴールデン枠ではヒット作を出せず。唯一のドラマ枠が崖っぷち状態。そこでショーランナーなる人物(ほぼリモート出演の斎藤工)に、企画・脚本・キャスティングから宣伝までまるっと依頼し、一か八かの賭けに出た。契約は微に入り細に入り、すべて斎藤に従うのが条件。

 作るのは「殺したいほど愛してる」という不倫モノ。主演は中井貴一と鈴木京香が演じる人気俳優のふたり。実はこのふたりは元恋人で、25年前に中井がアイドルと二股をかけて破局。京香が涙の破局会見を行い、以降共演NGだったという設定。

 さらに、他の役者陣もことごとく共演NGで犬猿の仲。急遽変更される台本、共演者同士の不倫発覚に体調不良による大御所の降板、トラブルはてんこもりだが、すべては斎藤による「バズるための戦略」という構図。

 ま、ドラマや芸能界の裏事情や大人の事情に1ミリも興味がなくて、イケメンがドジっ娘の頭ポンポン&壁ドンしてりゃOKな人には響かない。定番や顔芸、決め台詞だけで満足できる人もね。私はドラマ業界の本音と実情が知りたい。スポンサーと事務所に揉み手し、密約だらけのキャスティングを飲み込み、ネットで話題にさえなれば内容は二の次という風潮の中で、良作への意欲を失いかけた人々の愚痴が聴きたい。なので、このドラマを楽しんできた。

 テレビ東洋の面々(部長やプロデューサー、現場スタッフ)からあふれ出す愚痴と自虐は、テレビ東京の本音であり断末魔でもあり。特にアシスタントプロデューサー役の小島藤子や、報道からドラマ制作に異動してきた助監督役の森永悠希の声な。こういう若手のリアルで手厳しい客観の肉声がテレビ局という組織の中では反映されないんだよね。

 彼らがメインのオリジナルストーリー「殺したいほど疲れてる!」(Paravi配信)も追っかけて観ちゃったわ。

 短すぎて最ももったいないと感じたのは、中井と京香の最強コンビ。少しでもカッコつけると即虚仮にされる役は中井の本領発揮。二度見芸も絶品だ。京香は京香で、可愛らしさと憎たらしさと五十女の愁いと賢さが最高(私の脳内では堤真一と長谷川博己が共演)。

 あとは瀧内公美。斎藤の不遜な右腕、与謝野・マウリシオ・リリカ役に失笑。押しと売りが強くて目が決して笑わない、経歴詐称してそうな謎の派手な女。テレビ業界にいかにもいそう。

 共演が話題になったスポンサーの大手2社は6回で満足? 私はすこぶる不満。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年12月17日号掲載

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