新型コロナウイルス「ワクチン」安全性確保に関する4学会「共同声明」 MRIC通信(36)

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【筆者:小宮山靖・日本製薬工業協会データ・サイエンス部会、津田重城元厚生労働省職員

 新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンの安全性確保に関する「一般社団法人日本薬剤疫学会」「一般社団法人日本疫学会」「一般社団法人日本臨床疫学会」「日本ワクチン学会」の4学会による「共同声明」が公表されましたので、できるだけ多くの方々に共有したいと思います。

 感染拡大防止と経済の両立に頭を悩ませる国、地方自治体、新型コロナ感染患者に対する対応に追われる医療現場の逼迫、医療従事者の疲弊等、連日のように報道され、世界の誰もが未だ出口が見えない状況にあります。

 その暗闇に一筋の光が射している――。

 新型コロナワクチンはそのように捉えられています。

 確かに、新型コロナに対するワクチンの迅速な開発には目をみはるものがあります。5年から10年かかってもおかしくなかったワクチンの開発がわずか1年で、英国、米国さらには我が国においても、臨床現場で利用可能になるかもしれない状況にあります(編集部注:英国ではすでに緊急使用が開始されました)。

 社会は、接種者の優先順位付け、「mRNAワクチン」の低温保存に伴う輸送、保存、実際の接種のオペレーション、など直近の課題に目を奪われがちです。

 新型コロナに対するワクチンは、極めて短期間に非常に多数の健康者に対して接種が行われる可能性があり、社会に対する極めて大規模な医学的介入という側面があります。

 しかしながら、開発段階では検出できなかった、稀ではあってもワクチンのベネフィット&リスクを見直す必要があるほどの重篤な副作用まで含めた安全性プロファイルについて人類が理解するには至っていません。

 新型コロナに対するワクチンが、私たちを明るい未来に導いてくれる光なのか、それとも薬害という新たな社会問題のきっかけになるのか、現時点ではいずれの可能性もあります。後者のような暗い未来を作らないために極めて重要な取り組みが、新型コロナ対応ワクチンに対する安全性監視です。

 スペイン風邪の時代とは比較にならないほど、情報化が進む現代において、私たちができることは圧倒的に増えているはずです。たとえ極めて少数の方々に重篤な副反応が起きたとしても、同じ経験をする方を最小化する力を私たちは持っているはずです。

 次に示す4 学会共同声明は、そのために我々は今、何をなすべきかを示しています。

 緊急事態に直面している我々は、「すぐにできること」に飛びつきがちです。従来の考え方や枠組みでは困難と考えられる行動の準備をするのは今なのではないでしょうか。

 以下、【新型コロナウイルスワクチンの安全性確保に関する4 学会共同声明】の全文です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界的な公衆衛生危機を引き起こし、現在進行形で人間社会の有り様に甚大な影響を及ぼしつつあります。各国の総力をあげた公衆衛生、医療、社会経済的な対策が講じられてきたにもかかわらず、未だ収束の見通しは立たず、再流行の懸念と脅威から、それを阻止しうるワクチンや抗ウイルス薬など医学的介入の開発には各方面からの期待が寄せられ、科学と社会の叡智が総力上げて注ぎ込まれ続けています。

 新型コロナワクチンの開発は、全世界からの期待に応えるために各国政府からの支援を受けつつ、かつてない速度で進められており、年内には承認され、一般での使用が開始される見込みが高くなっております。

 その一方で、大多数の健康な人に接種を行う社会全体への医学的介入策であるワクチンには、有効性の十分な検証とともに高い安全性の確保が求められることもまた事実であります。多大な期待が寄せられるが故に承認後に安全性の懸念が生じた場合の社会的影響は甚大であると想定されます。

 COVID-19に対するワクチン承認後の安全性確保のためには、従前の医薬品・ワクチンの安全性監視の方法論に捉われず、ワクチン供給企業のみならず社会インフラ全体を活用した安全性監視体制の整備に予め取り組み、迅速かつリアルタイムな安全対策の実施を可能にするシステムを承認時までに整備することが肝要と考えます。さらに、複数回接種が必要なワクチンでは、確実な安全性及び有効性を得るために適正な接種スケジュールの遵守が必要であり、その接種記録の管理と医療関係者間での共有は重要であります。これを実現するためには、承認後、COVID-19に対するワクチン被接種者全員を登録、追跡するシステムを構築し、接種記録の共有と接種後の転帰の確認を可能とすることが必須と考えます。

 以上より表記4 学会は、次の(1)から(3)の具体案について検討することが必要と考え、ここに提案いたします。

(1)ワクチン被接種者が記入する予防接種予診票をインターネット経由で提出することで、被接種者を一元的に登録管理する電子的データベース(ワクチンレジストリ)を構築し、ワクチン接種時にはレジストリへの登録義務を課し、データ利用の同意を得ること。

(2)診療報酬請求情報などの各種医療情報データベースのデータと、1)で構築したワクチンレジストリに登録された被接種者のデータの個人レベルでの突合を可能にし、両者を併合して疫学的な解析を行うことを通じ、リアルタイムでのCOVID-19ワクチンの有効性及び安全性の疫学的評価を可能にすること。
 (※注)ワクチンレジストリと医療情報データベースの突合が困難な場合には、次善策としてCOVID-19に対するワクチン接種を何らかの形でレセプト情報に含める方策を検討されたい。

(3)ワクチン副反応によると考えられる健康被害に関して機を見るに敏な対応を可能とする制度を構築するために、上記のワクチンレジストリ及び医療情報データベースから得られる臨床情報をワクチンと健康被害との個別因果関係評価に活用すること。

 新型コロナウイルス感染症の一刻も早い克服には、誰もが安心して有効で安全なワクチン接種を受けることが原動力となります。そのためにも、上記に示すワクチン安全性監視システムの構築を通じて安全性上の問題をいち早く把握する体制を整えることが何よりも肝要と信じます。〉

本記事は「MRIC」メールマガジン2020年12月8日配信Vol.245よりの転載です

医療ガバナンス学会
広く一般市民を対象として、医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から解決し、市民の医療生活の向上に寄与するとともに、啓発活動を行っていくことを目的として設立された「特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所」が主催する研究会が「医療ガバナンス学会」である。元東京大学医科学研究所特任教授の上昌広氏が理事長を務め、医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC(医療ガバナンス学会)」も発行する。「MRICの部屋」では、このメルマガで配信された記事も転載する。

Foresight 2020年12月15日掲載

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