「公捜処」という秘密兵器で身を守る文在寅 法治破壊の韓国は李朝以来の党争に
裁判所の査察機関に
――公務員の監督機関が政権の手先になるというのですか?
鈴置:韓国は日本や欧米の水準から見て法治国家とは呼べません。検察は法律を極めて恣意的に適用し、思うままに訴えることができます。
産経新聞ソウル支局の加藤達也記者が朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する名誉棄損で起訴され、出国停止になった2014年の事件を思い出して下さい。朝鮮日報を引用した記事が訴えられたのに、朝鮮日報はまったくのおとがめなしでした。
当時、中央日報は社説で「加藤記者と産経は普段から度が過ぎる嫌韓報道で批判されていた」と、容疑とは関係のない理由を掲げ、起訴を正当化しました(『米韓同盟消滅』第3章第4節「あっさりと法治を否定」参照)。
韓国では検察など権力側だけではなく、メディアを含む社会全体に法治意識が希薄なのです。法律は個人を守るためではなく、権力者が力を振るうために存在する、と韓国人は考えているのです。
――韓国にだって裁判所があるでしょう。
鈴置:確かに、裁判官の中には先進国のように法律を公平に適用し、まともな法治国家を作りたいと考える人もいます。それだからこそ、与党――文在寅政権は公捜処の捜査・起訴対象に裁判官を入れたのでしょう。
公捜処が反政府的な政治家を起訴した際、どんな無理筋の起訴であっても、政権の報復を恐れる裁判官が有罪判決を出しかねない。実際、1987年まではそうだったのですから。権力を持つ側が保守から左派に代わっただけの違いです。
政府系紙のハンギョレでさえ「公捜処の捜査対象は7000余人…まずは検事の不正に集中か」(12月11日、韓国語版)で、「捜査対象7000余人のうち、裁判官が3000余人ということから、公捜処が裁判官の査察機関に転落しうるとの懸念もある」と書いています。記事の最後に、ちらっとですけれど。
退任後の防御兵器としても最高
――公捜処は保守を攻撃する究極兵器になるのですね。
鈴置:同時に、権力を防御する兵器としても威力を発揮します。他の捜査機関が捜査に乗り出す際は公捜処に報告する義務があり、その判断次第で公捜処に捜査を移せると設置法は定めています。
今後は、警察や検察が大統領やその側近の不正を暴こうとしても、公捜処に捜査を取り上げられてしまう可能性が大きい。
2019年10月14日、「疑惑のタマネギ男」と評された曺国(チョ・グッ)法務部長官が辞意を表明しました(「曺国法務長官が突然の辞任 それでも残るクーデター、戒厳令の可能性」参照)。
その後、検察は同氏の妻を娘の入試不正に関連した文書偽造罪などで逮捕。曺国氏も職権乱用の疑いで在宅起訴しました。
曺国氏は文在寅大統領の後継者とも目された人です。その時から公捜処が存在していたら当然、検察ではなく公捜処が事件を担当することになり、本人も妻も起訴を免れたであろう、というのが韓国での常識です。
曺国氏が法務部長官を辞めることもなかったでしょうし、文在寅政権の動揺も避けられた。公捜処は権力の防御兵器としても万能なのです。
保守系紙、朝鮮日報の12月11日の社説の見出しが「民弁検察の公捜処、政権が代わっても文政権の捜査を防ぐ『歯止め』に」(韓国語版)でした。
民弁とは左派の弁護士団体「民主社会のための弁護士の集まり」を指します。この社説は、左派が主導する捜査機関を作り上げた以上、文在寅大統領が退任後に起訴されることはない、と解き明かしたのです。
韓国の大統領の多くが退任後に検察に起訴されました。保守の大統領経験者を2人も監獄に送った文在寅政権も大きな恨みを買っていますから、わが身を守る「歯止め」が必須なのです。
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