緊張高まる「サウジ・UAE関係」共通点と相違点
OPEC(石油輸出国機構)とロシアなど非OPEC主要産油国で構成する「OPECプラス」会合が12月3日、テレビ会議形式で開かれた。生産体制を巡る加盟国間の見解の相違が表面化し、そのせいで会合の日程が延期され、サウジアラビアのエネルギー相アブドルアジーズ・ビン・サルマーン(ABS)王子が「合同閣僚監視委員会」(JMMC)の共同議長を辞任すると表明するなど、当初の予想よりもドラマに満ちたものになった。これについては、別途書くつもりだ。
また、ドナルド・トランプ米大統領が娘婿であるジャレッド・クシュナー上級顧問はじめ高官を(レームダック期間中であるにもかかわらず)「湾岸協力会議」(GCC:サウジ、クウェート、カタール、バーレーン、UAE=アラブ首長国連邦=、オマーン6カ国で構成)に送り込む、などということも起きている。
本稿ではまず、サウジとUAEの間で高まる緊張、それが中東地域に及ぼす影響について検討する。
異なる脅威
トランプが大統領に就任して以来、さらに2017年からのサウジ・UAE・バーレーン・エジプトによるカタール包囲網の形成以来、UAEとサウジは事実上一体であるという見方が広まっている。ある意味でこれは正しく、この2国の関係は密であり、いずれのリーダーも右派の専制主義的ナショナリストであるという共通点もある。しかも、両国とも米国と近く、イランへの深い不信感を持っている。
しかし、違いもある。
まず、UAEはサウジに比べるとずっと小さいし、外部からの攻撃に対して脆弱であるという自覚がある。
また、UAEの経済モデルは、その安全性、オープンさ、ビジネスをしやすい環境に拠るところが大きい。
さらに、地政学的にいうと、両国にとっての主たる脅威は異なっている。サウジにとって(特にムハンマド・ビン・サルマーン=MBS=皇太子にとって)は、主たる敵はイランだ。一方、UAEの実質的指導者ムハンマド・ビン・ザーイド(MBZ)皇太子にとっては、ムスリム同胞団がこれまでも今後も最大の敵である。
このような立場の違いは、昨年夏、UAEがイエメンとの戦争から手を引いた時にも注目された。
いま表面化している両国の齟齬は、時間をかけて進行してきたものだ。
この問題に関連して、筆者は2019年8月27日に下記のようなレポートを発信している。
〈UAEの(イエメンから手を退くという)決断は、サウジにとって喜ばしいものではないのは確かだが、かといって衝撃的な話でもなかった。この2国は、イエメン問題を超えて多くの共通する利害を持っており、同盟関係は堅固であり続けるだろう〉
〈UAEのイエメン撤退にはいくつかの理由があるが、キーとなったのは、UAEとサウジの間にある、長きにわたる優先順位についての考え方の相違だった。両者とも、イランおよびムスリム同胞団を脅威として捉えてはいるものの、UAEにとっては、ムスリム同胞団の方が差し迫ったリスクである。一方サウジにとっては、イランが最も重要なリスクである〉
〈UAEのイランとの関係は、サウジのそれとは異なっている。UAE政府も、サウジ政府同様、イラン政府に不信感を持ち、脅威に感じてはいる。ただ、UAEはサウジに比べると小国である上、国内の人口構成を考えると、イランとの付き合い方をそれに応じたものにしなくてはならない。UAEを訪れたことがある人なら誰でも同感してくれると思うが、UAEでは、膨大な数のイラン系ビジネスマン、イラン人観光客を目にする。それに比べたら、イランとサウジの間の交流はほぼ皆無である〉
カタールに対する姿勢の違い
【イラン政策】
今日、両者のプライオリティの付け方の違いは、イランおよびカタール(そしてオイル)政策の面で明らかになってきている。
まず、イランについて。UAEの政治リーダーたちは、基本的にはサウジ同様、イランに敵対心を持ってはいる。
しかし、彼らは恐らく、
「今この時点でイランと直接的に、軍事的に対峙することは賢明でない」
と考えている。また、もしイランが何らかの反撃に出た場合、UAEは最も脆弱な立場に立ちうるし、それがUAEに及ぼす経済的ダメージは甚大なものになるだろう。リーダーたちはそのことを正しく理解している。
従って、UAEは、米国のジョー・バイデン新政権がイランと核合意を再度調印することを喜びはしないだろうが、同時に、米国のリーダーシップが交代するこのタイミングで地域紛争がコントロールできないほど過熱化することも恐らく望んではいない。
【カタール政策】
次にカタールだが、メディアの多くは、カタール問題について「サウジ対カタール」という描き方をしているが、正確には、カタール対UAEという捉え方が正しい。サウジとカタールの緊張は、イデオロギーに基づいたものというよりは、MBS皇太子の個人的な感情によるところが大きい。
一方、UAEにとっては問題の本質が違う。カタールはトルコおよびムスリム同胞団(UAEにとって宿敵)と近く、ムスリム同胞団を財政的にも、軍事的にも、政治的にも支えてきた。また、カタールは、リビアはもちろんのこと、政治的にはチュニジアのような国においても、UAEとの代理戦争に加担している(エジプトで2011~13年に起きたのも、事実上カタールとUAEの戦いであり、その結果、アブデルファタハ・シシ大統領はUAEに近い)。
であるから、UAEとしては、米国がサウジにカタールとの関係を改善せよとプッシュしているのは面白くない。
サウジとカタールの関係は、実際のところ、今後いくつかのシンボリックな側面で改善する可能性がある。一方、カタールとUAEの関係は深く敵対的であり続けるだろう。
カタールに対する姿勢の違いは、サウジとUAEの更なる相違点となる可能性がある。
【イスラエル】
カタールとサウジの関係改善に加え、トランプ政権は、サウジにイスラエルとの関係を公に正常化するよう勧めている。おそらく政権関係者たちは、両国に対し、イランは共通の敵であることを強調し、
「サウジとイスラエルが反イラン統一戦線であることを、今のうちにバイデン新政権にむけて示せ」
とプッシュしていると思われる。
一方、UAEは、「アブラハム合意」(イスラエルとUAEの国交正常化合意)にサインはしたものの、イスラエルと一心同体と思われたくはないし、同合意を「反イラン連合」とは捉えられたくない。
【MBS皇太子】
今後、UAEとサウジの関係はぎくしゃくした時期を迎えると思われるが、その中で注視すべきはなんといってもMBS皇太子だ。
以前から書いている通り、MBS皇太子が今後権力を掌握するにつれ、彼がこれまで見せてきた性癖は、もっとひどくなるであろうし、それに対するチェック機能は、今よりも更に機能しなくなると思われる。MBS皇太子のこれまでの行動パターンから分かっているのは、追い詰められると、衝動的に向こう見ずな行動に出るということだ。
UAEはそのことをよく分かっているので、公にはMBS皇太子に対して敬意をもって接し続けている。
上記のような2国間ダイナミクスに加え、サルマーン国王の死後、MBS皇太子が王位を継承する時に、UAEがどう出るかに注目するべきだろう。
【本レポートは、中東専門リスク・コンサルティング会社「HSWジャパン」2020年12月3日発信「SAUDI ARABIA/UAE: Differences will intensify but strategic relationship will remain intact」に加筆したものです】