渡部建の「ガキ使」お蔵入り 実は“業界あるある” 視聴者は知らない裏の裏を解説

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撮るだけ撮って捨てる

 日テレが年間視聴率三冠王の座に初めて納まったのは94年のこと。92年に読売新聞からやって来た氏家齊一郎社長の指揮の下、始まった大改革の賜物と言われる。

 戸部田誠氏の「全部やれ。――日本テレビ えげつない勝ち方」(文藝春秋)には、その時の模様が再現されている。92年冬、氏家氏は中国飯店に30代中心のディレクター、プロデューサーを集めた。その顔ぶれは、「世界まる見え!テレビ特捜部」や「恋のから騒ぎ」の吉川圭三、「クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!」や「マジカル頭脳パワー!!」の五味一男、「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」や「進め!電波少年」の土屋敏男、「スーパージョッキー」や「THE夜もヒッパレ」の渡辺弘、「夜も一生けんめい。」やドラマ「家なき子」を手がけ、現在の社長である小杉善信、「笑点」や「とんねるずの生でダラダラいかせて!!」の佐野譲顕、と後に日テレを引っ張った面々。

 氏家氏は彼らに、フジテレビに勝てない日テレの問題点や不満、どうすべきかを挙げさせた上で、こう言ったという。

「お前らが言ったことを明日から全部やれ」

 その精神が今も日テレには息づいているということらしい。

「やるだけやってみて、お蔵入りなら仕方がない。番組まるごとなら確かに問題ですが、一部分のお蔵入りなら数え切れないほどありますよ」

 もっとも多いのは、スポンサーへの忖度からのNGとか。

「歌番組で、ある女性歌手が“この前、息子が交通事故に遭った”なんて話をした。もちろん息子さんが事なきを得たから話せる内容です。ところが、放送前の試写を見た上層部から差し替えの命令が来たとかね。『スポンサーが自動車メーカーなんだから切れ』と。化粧品メーカーがスポンサーだと、厚化粧トークがNGになったりします」

 コンプライアンス違反が後から判明することも。

「『ぐるぐるナインティナイン』では、体操の五輪メダリスト・池谷幸雄さんに、渋谷駅周辺の歩道橋の手すりで平均台をさせたり、信号機で鉄棒、スクランブル交差点の真ん中で大縄跳びをさせて、書類送検されたのは有名な話。今でも、ドラマでシートベルトをするのを忘れていた、交差点で駐車してしまい後から気づいて撮り直し、なんてことはよくあります」

 懐かしの映像が、お蔵入りになってしまうことも。

「歌番組などで、懐かしのアイドルの過去映像を使うつもりで所属事務所に許可を取り、周辺取材まで済ませた。しかし、肖像権を扱う業界団体から許可が下りずにお蔵入り、なんてケースは、業界あるあるですね」

 トーク番組など、撮影後に出演者から「悪いけどあそこ、使わないでくれる?」なんてことも日常茶飯事という。

「虫の居所が悪くなったのか、大御所からお蔵入りの要請をされることもあります。それと、子供は難しいですね。何をするか予想できませんから、『はじめてのおつかい』なんて、全収録分の10分の1も使えないと言われています」

 最近はジェンダーなどにも気を遣うという。

「フジの『みなさんのおかげでした』で、タカさん(石橋貴明)が保毛尾田保毛男を久しぶりに演じたら大炎上したこともありましたが、あの辺りからお蔵入りになるケースも増えています。黒人を演じるために黒塗りにすることも難しい時代になりました。でも、撮るだけ撮ってダメなら捨てる。制作費がペイすればいい、という考えの人が多いのも事実です」

 もっとも、「いやー映画って本当にいいものですね」のセリフで知られた水野晴郎が選挙出馬のために「水曜ロードショー」を降板した際は、さすがにスタッフは怒ったらしい。

「撮り溜めしてあるわけですよ。にもかかわらず、出馬することをギリギリで言ってきたものだから、大混乱になったそうです。それでも被選挙権は、憲法で保障された国民の権利ですから、文句も言えません」

 いろいろなご苦労があるようで。

週刊新潮WEB取材班

2020年12月14日掲載

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