ソフトバンク、ドラ1「吉住晴斗」育成再契約の波紋、物量作戦で逆転現象の功罪

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 パ・リーグの球団としては史上初となる日本シリーズ4連覇を達成したソフトバンクだが、このオフは“意外な選手”の動向がニュースとなっている。2017年のドラフト1位で入団した吉住晴斗が支配下契約を解除となったのだ。チームは育成契約を打診したものの、高校卒のドラフト1位でプロ入りした選手が大きな故障がないにもかかわらず、わずか3年で自由契約となるのは異例のことである。本人は引退も示唆していたが、面識のないダルビッシュ有(カブス)からの連絡をきっかけに思いとどまり、育成選手として現役続行を決意したことも話題となった。

 もともと吉住は他球団からの評価が決して高かったわけではなく、ドラフト1位で指名を受けた時も本人が育成での指名を考えていたというコメントを残している。過去3年間で二軍での登板も2019年の12試合だけで、抽選を3度外した末の指名とはいえ、1位という見立てが誤っていたという見方もできるだろう。ただ、ソフトバンクの現状を見てみると、吉住以外でも上位指名が思うように戦力になっていないというのもまた事実だ。過去10年に1位で指名した選手を並べてみると、以下のような顔ぶれとなる。

2010年:山下斐紹
2011年:武田翔太
2012年:東浜巨
2013年:加治屋蓮
2014年:松本裕樹
2015年:高橋純平
2016年:田中正義
2017年:吉住晴斗
2018年:甲斐野央
2019年:佐藤直樹

 武田、加治屋、甲斐野の三人は活躍したシーズンはあったものの、現在は故障もあって戦力となっておらず、加治屋は今オフに退団している。今年主力として満足な働きを見せたのは東浜だけだ。2017年以降はドラフトで抽選を外してきたという不運はあったが、高橋と田中はその年の一番人気であり、武田と松本も自信を持って単独指名した選手である。武田以外の三人は故障を抱えてのプロ入りではあったが、ここまで長い期間が経過しても主力に定着できていないのは、大きな誤算と言えるだろう。

 同じ時期の2位指名からは柳田悠岐、森唯斗、栗原陵矢、高橋礼が主力になっているのは大きな救いだが、一方で、吉本祥二、伊藤祐介、小沢怜史の三人は既に戦力外となっている。上位指名全体での成功率は決して高いとは言えない。

 ソフトバンクの成功の要因と言えば、二言目に出てくるのが育成選手の活用である。過去10年間に育成ドラフトで入団した選手では千賀滉大、牧原大成、甲斐拓也、石川柊太、周東佑京がチームの主力に成長している。千賀、甲斐、周東に至っては日本代表クラスとも言える存在だ。

 アマチュア時代に評価の高くなかった選手が、これだけ育っているにもかかわらず、1位や2位で指名した選手がここまで停滞しているのは、逆に驚きでもある。多くの育成選手を抱えられるだけの設備、スタッフを揃える“物量作戦”が奏功していると言ってしまえばそれまでだが、本来ポテンシャルの高いスター候補を開花させられていない点については、改めて見直す必要がありそうだ。

 育成選手からスター選手が誕生すると、そのストーリー性の高さから必要以上に大成功と言われるが、チームを強くするための正攻法は、ドラフト上位指名の選手を万全な主力へと育てることではないだ。選手の立場からすると厳しい競争に勝ち抜くことでレベルが上がるという考え方ができるが、その一方で見切られるのも早くなるという“不安要素”も出てくる。

 支配下登録からの解除を通告された吉住から「気持ちが切れかかっている」というコメントが出たのもその裏返しと言えるだろう。チームの日本一に貢献しながらも、昨年は福田秀平がFAで退団し、今年も長谷川勇也がFA権の行使を検討したことも、現状のチームに対して投げかけた“疑問”だったのではないか。このような不安材料をどう払しょくしていくのかが、ソフトバンクが球界の真の盟主となるうえでの大きな課題と言えるだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月12日掲載

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