小松政夫さん逝去 昨年語っていた“60年で無事故無違反”のドライバー人生

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 俳優でコメディアンの小松政夫さんが、肝細胞がんのため、12月7日に亡くなった。享年78歳。小松さんは昨年、デイリー新潮のインタビューに応じ、相次ぐ高齢ドライバーの事故について語っていた。運転歴60年で無事故無違反だったという小松さん。“来年2021年2月の免許更新で返納する予定”と元気にお話していたのだが――。(以下は19年7月4日配信記事を一部編集)

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 4月19日に東池袋で起こった事故は、まだ人々の記憶に生々しく残る。旧通産省工業技術院の飯塚幸三・元院長(88・事故当時87)の運転する乗用車が道路左側の縁石に接触後、パニックになったのか、100キロ近いスピードで約150メートル暴走。2つの交差点に赤信号で侵入して、通行人らを次々にはねた。自転車に乗った松永真菜さん(31)と長女の莉子ちゃん(3)が亡くなり、10人の負傷者をだした。

「飯塚元院長が、事故の実況見分をしているところをテレビで見ましたが、生き恥を晒しているっていう感じでした。実況見分を見た人から、“ああ、あいつがやったんだ”なんて言われているんじゃないでしょうか。僕だったらもう、自ら死を選びますね。高齢で刑務所へ入れない可能性があるのですか? だったら、老人ホームみたいな刑務所をつくって収容すべきでしょう」

 と語るのは、俳優でコメディアンの小松政夫氏(77)である。

「80歳を超えると、どうしても反射神経が鈍くなってきますから、やはり危険がつきまとう。自分では大丈夫と思っていても、アクセルとブレーキを間違って踏んでしまうことがある。この池袋の事故で、飯塚元院長はブレーキを踏んだが効かなかったと言っていますが、ずっとアクセルを踏み続けていたんですからね。それで何十人もいる交差点に突っ込んだ。パニックになったら、もう高齢者ドライバーは終わりです。自分が何をやっているんだかわからなくなって、凶器そのものになってしまうんですから」

 高齢者には、オートマチック車でなく、マニュアル車のほうが安全だという。

「昔の俳優仲間が、初めてオートマチック車を買ったとき自慢していましたが、なにがオートマチックだと思いましたよ。やっぱり車は、クラッチでロー、セカンド、サードと繋げて走るものです。たまにダブルクラッチなんてこともやってました。マニュアル車は、誤操作をすると、エンストしてしまう。暴走しにくいんですよ」

 小松さんが免許を取得したのは、17歳の時だった。

「事務機のセールスマンをやっている時でした。教習所に通うと金がかかるので、横浜の警察署試験を受けに行ったのです。いきなり試験ですから、100人のうち6人しか合格しなかったのですが、僕は一発で合格しました」

 その後、横浜トヨペットのセールスマンになった小松さん、最初に買った車は中古のマツダR360だった。

「次に買ったのは、フォードプリヘクト。アメリカのギャングが乗っているような車です」

 22歳で植木等の付き人兼運転手になってからは、植木の所有するクラウン、プレジデント、センチュリー、リンカーンなどを運転した。

「植木さんの付き人を4年務めてコメディアンとして独立した後は、世話になった横浜トヨペットや横浜トヨタから、カローラなどトヨタ車を次々と購入したのです。元同僚たちのノルマを達成させるために、買って2カ月後にまた買うなんてこともあった。これまで20台以上は乗り換えましたね。で、今乗っているのはトヨタのハイラックスサーフです」

 免許を取った17歳から77歳まで、運転歴は60年にも及ぶが、これまで無事故無違反を貫いている。

「昨年、免許更新の時に、後期高齢者ということで、初めて認知機能検査を受けたのですが、正直言って屈辱的な思いでしたね」

 免許更新の時、70歳以上は高齢者講習、75歳以上になると高齢者講習と認知機能検査が義務付けられている。

「認知機能検査では、パンダとか携帯電話などの絵を10枚ほど見せられて、その後、絵とは関係ない話をするのですが、5分後に、さっき見た絵を知っているだけ書き出せと。10枚全部覚えてないですよ。“そんなこと言うんだったら、おまえ、舞台のセリフ覚えてみろ!”と言ってやりたかったですね」

 30前後の若い試験官からは、

「“はい、そこに座って。松崎(小松氏の本名)さんですね、おいくつですか?”と、バカな質問をするんです。“そこの書類に書いてあるじゃないか”と反論すると、“今朝、ご飯は何を食べました?”
と言われて、“なんだって!”と怒っていたら、年配の試験管があわてて来て、“まあまあ、松崎さん”と宥(なだ)めに来ました」

 教習場内で車の実技試験も受けたという。

「“信号通りに走れ”と言うので、その通りに走ると、試験管が、“大変良く走られましたが、ひとつだけ、一時停止の停止線で止まらなかった”と言うので、“教習場内では交差点は見渡せるけど、住宅街とかだったら、家があるから停止線の前まで進まないと見渡せない”と反論したのです。けれども、試験官は“停止線で止まれ”と。なんか、納得いかなくてね」

 小松さんの奥さんは70歳になった時、免許を返納したという。

「運転していると、女房が、“センターラインに寄り過ぎる”って注意するんです。“もう、運転辞めたほうがいい”と。センターラインに寄ったのは、対向車がいなかったからで、そういう時は、歩行者と接触しないように歩行者側を開けて走るんです。ちゃんと計算して運転しているんですよ」

 事故を起こさない秘訣はなにか?

「何時までに目的地に行かないといけない、というドライブはやめたほうがいい。飛ばさなければいけない状況をつくってはいけないんです。遅れそうだからと、高速道路に乗ったりして、焦って走れば事故に繋がります。高齢者は注意力が散漫になる傾向があるから、焦りは絶対禁物です。一時停止では確実に止まって、左右をよく見てから動くような運転を心がけることですね」

79歳で免許返納

「2021年2月に次の免許更新が来るのですが、この時に返納する予定です。今年は1カ月半の旅公演をやって、3つの演目をこなしましたが、もうヨレヨレになりました。体力が落ちてきたので、運転もそろそろ終わりかなと。返納する前は、伊豆半島を一周して来ようと思っています。ゆっくり走って、気が向いたらご飯でも食べて……」

 小松さんは10月31日から11月4日まで、東京・中目黒キンケロ・シアターで舞台「『うつつ』小松政夫の大生前葬」に主演する。

「水の江瀧子さんが初めて生前葬をやりましたが、この舞台では、『しらけ鳥音頭』、『電線音頭』、『淀川長治』など、自分の引き出しを全部ぶちまけます」

 と小松さん。最後に高齢者ドライバー問題についてひと言。

「田舎では、自宅からスーパーまで車で20~30分かかるという所はたくさんある。車がないと生活できないわけだから、高齢者だからといって、みな免許を返納しろとは言えません。まずは、各地域で、ショッピングセンターとか病院などを巡回する、乗り合いタクシーのようなものを用意する必要がありますね」

週刊新潮WEB取材班

2020年12月11日掲載

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