病院がコロナ患者の受け入れを避ける理由 世界一の病床を持つ日本で「医療崩壊」が叫ばれる矛盾

国内 社会

  • ブックマーク

役人、政治家の「責任逃れ体質」

「指定感染症を解除してなにか問題が生じたとき、厚労省も政治家も責任をとりたくないのでしょう。責任逃れ体質の影響です。感染者が冬に再び増えるのはわかっていたのだから、夏のうちに解除しておくべきだったのです」

 と、元厚労省医系技官で医師の木村盛世氏が呆れる。

「このままでは貴重な医療資源が奪われるばかりです。たとえば、医療従事者が感染すると、周囲の医療者も濃厚接触者として扱われますが、そんなことをしていたら、対応できる人がどんどん減ってしまいます。最近、救急科の先生に聞いた話だと、急患を受け入れる際も、相手が感染者かもしれないからと、防護服を着て消毒を完璧にしたうえで、対応しなければいけないそうです。しかも、その準備に15分はかかる。それだけの時間を浪費していたら、助かる命も助からない、という事態になりかねませんが、そんなバカな対応が必要なのも、2類相当のままだからです」

 そして、続ける。

「私が産業医をしている会社の方が“インフルエンザの感染者が出ても会社になにも影響がないのに、コロナが出たら事業所を閉めなければいけない”と心配していました。実際、そんなことをしていたら社会が回らなくなる。新型コロナは季節性の風邪と同様、五つ目のコロナウイルスとして定着するでしょう。そんな風邪に“緊急事態宣言だ”などと対応していたら、倒産は止まらないし、自殺者も増えるばかりです」

政府が2類に固執する理由

 田村厚労相の「ウイルスの特性がはっきりわかってくるまでは」という発言に対しては、東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏も、こう批判を加える。

「どんな物事も、科学的に100%解明することなどできません。科学とリスク管理も別ものです。新型コロナであれば、100%解明できていなくても、どれだけの感染力があり、重症者や死者がどれだけ出ているのかなど、実際上の問題がわかっていればリスク管理はできる。経済や社会の状態がこれほど悪化しているのに、田村大臣のように“ウイルスの特性がわからないからこのまま指定感染症として扱う”なんて言っていては、どんなリスク管理もできません」

 しかし、なぜ政府は2類に固執するのか。

「厚労省内でいま一番力を持っているのは、分科会の尾身茂会長を中心とする医療関係者です。彼らには感染者を減らすことがなにより大事で、経済や社会を守ることより優先順位が高い。その専門家の意見に多くの政治家が引きずられ、菅総理もGoToの縮小に応じざるをえなくなりました。専門家も良心にもとづいて発言しているのですが、感染を抑えるために、なにかのせいにして対策を講じたい。今回はGoToのせいにされましたが、実際には、いまの感染者増も、GoToで人の移動が増えたからではなく、ウイルスが得意な季節である冬になったからにすぎません」

 そして、現状を憂える。

「菅総理一人では、指定感染症の扱いを見直す根拠を示せません。本来、経済や社会の状況も加味しながら、専門家がその根拠を示さなければなりませんが、彼らには見直す気がない。この状況は二・二六事件によく似ています。専門家たちは、あのときの青年将校で、やりたいことを実現すべく政治家をがんじがらめにしている。一つ違うのは、二・二六事件では政治家が勝ちましたが、今回は負けています。医療関係者には別の問題もあります。日本の医療はここ何年も予算が削られ、大病院でも合併したり、病床数を削減しなければならなかったりで、現場のフラストレーションがたまっていた。そこに新型コロナで予算がどんと増えた。しかも、2類でこそ予算を増やしてもらえるのです」

「ほとんどの病床がコロナに割かれていない」

 むろん、医療の充実自体は国民の利益にかなう。問題は、柔軟性の有無だろう。医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之氏が言う。

「世界で一番病床を持っているのは日本です。そのうえ感染者数も死者数も欧米の50~100分の1。この二つを考慮すれば、日本の医療は世界で一番余裕があると宣言しないとおかしい。ところが、ほとんどの病床がコロナに割かれていないのが実態です。たとえばドイツやスウェーデンは、緊急でない医療措置を延期し、コロナ患者用のICU病棟を2週間で2~3倍に増やしています。感染症は波のように押しては引くので、常に病床を用意しておくのは合理性が低い。一気に増やし、引いたら戻す必要があるのに、日本ではそれが一切できていません」

 だからこそ、政府が「青年将校」に支配されてはいけないのである。

「むしろ菅総理は、正確な情報や事実を国民に知らせるべきです。多くの病床が空いているのも、感染者は増えていても実効再生産数がここ2週間ほど下がっているのも事実。そういう情報を出すと国民の気が緩む、という意見もありますが、事実は事実なのです」

 不安を煽るメディアによって世論が作られ、専門家がそれに追従し、政府は主体性を失って唯々諾々とそれらに従う。そうするうちに社会や経済がどれほど傷んでしまったことか。政府は「青年将校」を文民統制し、国民に真実を伝え、政府自身もこの感染症の実態を見つめ直すことだ。それに勝る対策はあるまい。

週刊新潮 2020年12月10日号掲載

特集「人災のコロナ危機! 報道されない『高齢者の死亡率激減!』 演出される『医療崩壊』」より

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。