巨人は有望若手をなぜ何人も自由契約にするのか 狙いは“FA対策”の指摘に賛否両論

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 ストーブリーグに突入したプロ野球。12月7日には12球団合同トライアウトが行われ、このオフに自由契約となった選手やNPB復帰を目指す選手が必死のアピールを見せるなど、一部の選手にとってはまさに人生の岐路に立たされていると言えるだろう。

 球団ごとに戦力外、引退、退団となった選手を見ていくと、セ・リーグ連覇を達成した巨人が圧倒的に多いことに気づかされる。12月7日時点で引退やトレードで退団した選手も含めると28人にのぼるのだ。巨人と同じく育成選手を多く抱えているソフトバンクが17人ということを考えると、いかにこの数が多いかがよく分かるだろう。シーズン中の8月下旬に行われた編成会議終了後にも大塚淳弘球団副代表・編成担当が大量のリストラを敢行する予定とコメントしていた通り、復活が期待できない中堅選手やこれ以上の成長が見込めないと判断された若手を一気に放出した印象だ。

 しかし、その顔ぶれをよく見ていくと、また違う側面も見えてくる。堀田賢慎、鍬原拓也といったここ数年のドラフトで1位指名した選手や、昨年ルーキーながら二軍で首位打者を獲得した山下航汰、今年2年目ながら一軍初先発も経験した直江大輔といった若手の有望株も自由契約とした選手に含まれているのだ。いずれも故障で長期離脱を余儀なくされたことから、育成選手として再契約する方針というが、いくらそのような事情があっても、ドラフト1位で在籍1年しか経っていない堀田のような選手が育成契約となるのは前例のないことである。

 支配下選手として契約できる70人の枠を故障で出場できない選手で使いたくないというのが狙いだが、これにはもうひとつの思惑があるとも言われている。それはフリーエージェント(FA)で獲得する選手の人的補償として、若手の有望株が他球団へ流出することを防ぐことである。

 年俸の高いAランク、Bランクの選手を獲得した場合、球団がプロテクトできる選手の人数は28人と決まっているが、その対象はあくまで支配下選手に限られており、育成選手は含まれていない。過去に巨人は一岡竜司(広島)、奥村展征(ヤクルト)、平良拳太郎(DeNA)といった入団間もない選手が人的補償で他球団へ移籍し、一岡と平良は中心選手へと成長している。先ほど名前を挙げた堀田や直江といった選手たちも、支配下で残しておくとプロテクトから外れて「第二の一岡、平良」になる可能性は否めない。そうなる前に手を打ったというところだろう。

 このようなやり方に対して批判の声も上がっているが、巨人とすればルール違反をしているわけではない。また、アマチュア側からは上位指名で入団しても状況によってはすぐに育成契約となる球団として見られるリスクを背負っているとも言える。そのようなことを考えると、今の育成選手やFAの人的補償のルールについて見なおすことも考えるべきではないだろうか。

 育成選手については2007年のシーズン開幕直後の4月に中日が入団2年目の金本明博を投手から野手に転向させることに際して、支配下の枠を空けるために一度ウェーバー(契約破棄)公示し、他球団から獲得の意思がなかった場合に育成選手として再契約しようと試みたことがあった。

 この動き自体はルール上の問題はなかったものの、本来の育成選手の趣旨とは異なると選手会から抗議があり、最終的には中日が手続きを取り下げるという事態となっている。このことがあって以来、シーズン途中に支配下登録の選手を育成契約に変更することは禁止となった。

 ただ、若手の育成を目的とするはずの制度が、現在でもベテランの故障者を球団に残すためにも使われていることは確かである。本来の趣旨に沿うのであれば、育成選手と故障者選手を分けるなどすべきではないだろうか。

 また、人的補償については、昨年オフに原辰徳監督からはFAによる移籍を活性化させるために撤廃すべきという意見も出ているが、戦力均衡化を図るためにはただ撤廃するだけでは不足していることは明らかだ。メジャーリーグのように年俸総額が一定額を超えると、いわゆる贅沢税(課徴金)を課す、または人的補償かドラフト指名権の譲渡かを選べるようにする、といった措置をとることが必要になってくるだろう。

 あまりに複雑な制度にし過ぎるとファン離れに繋がる恐れもあるが、今の育成契約やFA制度にはあらゆる穴があることは間違いない。選手にとっても球団にとってもそしてファンにとっても最適な制度を模索する動きは継続していくことを強く望みたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月10日掲載

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