新型コロナ、高齢者の致死率が低下 治療法の確立、日本人の自然免疫の向上が原因か
医師「対処が熟練してきた」
感染者の実数は陽性者数をはるかに上回ると考えられるため、現実の致死率はこの数字を大きく下回るのは、言うまでもない。致死率が下がった原因を、感染症に詳しい浜松医療センター院長補佐の矢野邦夫医師は、こう説く。
「最初にPCR検査や抗原検査が容易に受けられるようになったことが、大きな理由です。以前は発熱して4日経たないと検査できず、感染者が運ばれてくるまでに時間がかかり、病院に着いたときにはウイルスが増殖し、サイトカインストーム(免疫暴走)が起きているケースも多かったのです。いまは町のクリニックでも抗原検査を受けられ、発症から医療を受けるまでの時間が短縮された分、治療が助けられています」
次の理由は、
「治療法がだいぶわかってきた。治療は大きく2段階に分けられ、第1段階では抗ウイルス薬を使用し、第2段階で炎症を抑えるため、ステロイド薬のデキサメタゾンを使います。抑えるのが難しいサイトカインストームですが、臨床経験が蓄積され、危ないと感じたらデキサメタゾンを使うようになり、使うべきタイミングもわかってきました。うちの病院では、これまで新型コロナ患者を200人以上診ていて、いまではパッと見て年齢と合併症を考慮すると、危ないかどうか雰囲気がわかります。わかれば、最初から呼吸器内科に相談しておく、などの手も打てる。以前とは対処の熟達度が違います」
そして、こう加える。
「高齢者は以前からハイリスクだと推測されていましたが、ここまで明確になっていなかった。いまは高齢だとかなり警戒して、発熱したらすぐに病院に来てもらい、CTを撮って肺炎がひどければ、デキサメタゾンを早めに使う、といった対処ができます。高齢者治療に自信がつきました。また、検査が増え、軽症の高齢者も出てきています。60代でもすぐに悪くなる人がいる一方、90歳を超えた鼻かぜ程度の症状の人を検査したら陽性だった、ということもあります」
日本人全体の耐性が向上か
国際医療福祉大学大学院の高橋泰教授(医療政策)も、治療の現状について、
「ステロイド薬を使うことでサイトカインストームを抑えられる、ということを、医療に従事するほとんどすべての先生たちが認識するようになった。どのように薬を使ったらいいのか、という情報も広がり、重症になっても早めに治療できて、死に至らないケースが増えているのは間違いない」
と説明。そこにもうひとつの要因を加える。
「日本全体に“感作(かんさ)”が増え、重症化の手前で治る人の比率が高まった、という仮説が挙げられます。ウイルスが細胞表面や内部のレセプター(受容器)とくっつき、細胞のなかで増殖する状態が感染。一方、“感作”とは、ウイルスが体内に入っても自然免疫と接し、それ以上は入らない状態のことです。感作すると自然免疫が強化され、感染まで至らない人が多く、感染しても自然免疫で抑えられるようになります。こうしてこの半年ほど、日本人全体でコロナに対する耐性が強くなり、そのことが致死率の低下に関係している可能性もあります」
そもそもインフルエンザでも、風邪でも、高齢者のリスクは若い人にくらべれば高い。新型コロナだけが特別ではない、ということも、あらためて強調しておかなければなるまい。
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