「炎上したことにする」メディアの責任 少数派の意見を取り上げ「炎上」と言うのはどうなの?(中川淳一郎)

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 いわゆる「炎上」ってメディアが誘発するものです。本当は炎上していないのに、メディアが「炎上認定」するから「炎上したこと」になる。おい、代表はデイリースポーツ電子版、お前だ。スポーツ新聞の矜持も定見もなく、ひたすらテレビとラジオとネットで他人のアラ探しをしながら、自分は安全な立場からコタツ記事書いてるよな、お前らは。

 最近、「マルちゃん正麺」が「炎上したこと」になりました。同商品の公式ツイッターで公開された、8ページの漫画がターゲットです。

 お父さんが幼い息子にこのラーメンを作ってあげる話で、帰ってきたお母さんが食器を洗い、お父さんは脇で食器を拭く最後のコマを批判するツイートがありました。「お母さんはラーメンを食べていないのに、食器を洗うのは女性差別だ!」というのです。

 この件を「炎上」的に報じたメディアが登場したことから、正麺は「炎上したこと」になりましたが、あのさ、別に正麺は炎上していないから。「正麺」は「ご意見」を受け止めたうえで、作品の公開を再開すると発表しました。

 今や日本では、一部の極端な人の暴論により、いろいろなことが潰される事態になっています。これでいいの? 「正麺」についても、あくまでも「漫画の表現の範疇」でしかない。それでも気に食わない人がネットでイキっただけ。

 今年4月26日、デイリースポーツの電子版が「『サザエさん』実社会がコロナ禍の中でGWのレジャーは不謹慎との声も」という記事を出しました。この記事が悪質なのは冒頭のこの文に現れています。

「国民的アニメとして人気のフジテレビ系『サザエさん』(日曜、後6・30)が、26日の放送後、Yahoo!のトレンドランクで上位を占めている。」

 あのね、テレビに出たらトレンドの上位に来るの。それくらいバカライターでも知ってるでしょ? 一つの言葉で「占める」はありえないし。で、こう続く。

「ツイッターでは『GWに出掛ける話なんてサザエさん不謹慎過ぎ!』『他に差し替える話は無かったのか?』『サザエさん一家が呑気に家族総出で外出しとるん観るとなんか腹立つわ』などと、本気とも冗談ともつかないながらも批判のコメントが多数飛び出した」

 これについては、ネットの「note」でtori氏が「4月26日のサザエさんが不謹慎だと言った人は11人しかいなかった話」と検証しています。

 tori氏の分析では、サザエさん一家が4月26日の回でGWの旅行を計画している話を放送したところ「不謹慎だ!」との声が出たが、実際に「不謹慎」的なものは11件しかない。むしろ、「不謹慎との声も」という記事により、「炎上したこと」になった、とします。

 少数派の意見をデイリースポーツのバカがアクセス稼ぎのためにセンセーショナルに「炎上」報道をしたわけです。

 競争が激化しているウェブメディアの運営が厳しいのは分かりますが、デイリースポーツをはじめとしたスポーツ新聞、コタツ記事ばかり量産するお前ら、存在価値もうねーよ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年12月3日号掲載

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