吉村知事「トリアージ発言」の波紋 米国はガイドラインを作成、日本ではまず無理?

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若き日のヒトラーが患者なら?

 イタリアの次に注目が集まったのは、アメリカのニューヨークだ。読売新聞は4月5日、「新型コロナ NY 迫る医療崩壊 人手も呼吸器も不足 感染10万人」との記事を掲載した。

《ニューヨーク市クイーンズ地区の総合病院は、約600の病床を約1000床に増やして急増する患者に対応している。救急救命室の看護師トリシャ・マヨルガさん(31)は「患者が次々と運ばれてきて、救急救命室や集中治療室(ICU)もいっぱい。ロビーが治療の優先順位を決めるトリアージの場だ」と実情を明かす》

《病院では、持病のない40~50代の中年世代、20代の若者らも次々に命を落としている。感染を防ぐため、家族らは患者と面会できず、「彼らは一人で苦しみながら孤独に死んでいく。本当につらい。この世の終わりのような光景だ」と語る》

《マヨルガさんは「人工呼吸器を使う患者を『選別』しなければならない、厳しい局面になってきている」と話す》

 トリアージをどのように行うか、欧米では議論が百出したという。

「例えば、『重症化リスクのある高齢者より若い人を助ける』という規準は、合理的なように思えます。ところが向こうでは、『社会にとって有用な高齢者は助けなくていいのか』、『若き日のヒトラーが重症患者だったら助けるべきなのか』と哲学的な問いも含めて議論されています」(同・ジャーナリスト)

 社会にとって有用な人物といえば、例えば政治的なリーダー、経済界のトップ、多くの人に愛されるスーパースターといったイメージが浮かぶ。

 そんな“セレブ”の命と、金も名声もないアルバイトで食いつないでいる20代の命と、どちらが大事なのか──?

ガイドライン作成の困難

 ニューヨーク・タイムズ(電子版)は3月31日、「新型コロナウイルスの感染曲線が頂点を迎えた時、どうやって病院は治療を行う患者を選別するか?」という記事を配信した。

 これは同紙の記者2人がニューヨーク州やワシントン州など、全米11州で発表されているトリアージ文書を精読し、どういう規準で“命の選別”が行われるのかを伝えた調査報道だ。

 やはり規準を決めるのは、アメリカでも難しいようだ。記事は《さまざまな倫理的問題、および社会的平等の問題に取り組むのに苦労している》と指摘している。

 例えば「心臓や内臓など基礎疾患のある患者は、治療の優先順位を下げる」という規準はどうだろうか。助かる可能性が低いのは事実だ。「合理的だ」と納得する人もいるだろう。

 だがアメリカの場合、低所得者層は生活習慣病や基礎疾患を持つ人が多く、貧困と人種差別と健康状態が絡みあっているという問題がある。

 いわゆる“自己責任”が問えないケースも少なくない。すると「生活習慣病や基礎疾患というリスクを抱える新型コロナの罹患者は、治療の優先順位を下げる」と安易にガイドライン化してしまうと、究極的には黒人差別につながる危険性をはらんでいるわけだ。

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