経済的な理由で始めた「介護の合間のアルバイト」には意外な効用があった──在宅で妻を介護するということ(第14回)

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「彼女を自宅で看取ることになるかもしれない」 そんな覚悟もしつつ、68歳で62歳の妻の在宅介護をすることになったライターの平尾俊郎氏。

 幸いなことに、少しずつ妻は回復していった。意思疎通ができるようになり、口で食事もとれるようになった。その分面倒も増えたものの、喜びも増した。

 もっとも経済的には決してラクではない。そこでアルバイトを始めて、意外な効用に気づかされる――体験的「在宅介護レポート」の第14回である。

【当時のわが家の状況】
夫婦2人、賃貸マンションに暮らす。夫68歳、妻62歳(要介護5)。千葉県千葉市在住。子どもなし。夫は売れないフリーライターで、終日家にいることが多い。利用中の介護サービス/訪問診療(月1回)、訪問看護(週2回)、訪問リハビリ(週2回)、訪問入浴(週1回)。

すべて順調、デイサービスも視界に

「口から食べるようになると、いろんなものが良くなりますよ」──訪問看護師さんの言葉にウソはなかった。

 最初に感じたのは皮膚の変化だった。カサカサして、ときに粉が吹いたようになった手足の皮膚に潤いが生まれ、わずかだが赤みが差してきた。顕著だったのは仙骨の褥瘡(じょくそう・床ずれ)の痕。後戻りするのではという不安を払拭するほど血のめぐりがよくなり、周囲の皮膚と同化してきた。

 口や顎を動かすことで顔の筋肉も刺激されたのだろう。チューブが入っていたときよりも明らかに感情が顔に出るようになった。顔色も日に日に良くなり、老婆のように深く刻まれていた頬や額のシワがさほど目立たなくなった。

 女房の変化に強く反応したのは、毎日見ている私よりも週イチで訪れる看護師や理学療法士だった。「こんにちは」と目を見てしっかり挨拶し、簡単な言葉のキャッチボールをするようになったのに驚き、件の看護師さんも「自分で食べることって本当にすごいのね」と再認識したようだった。

「食事介助」には相変わらず多くの時間と労力を割かれたが、ひと月もすると慣れてきた。1日のカロリー目標900kcalを、さほど苦にせずクリアーできるようになったことが大きい。おかゆが普通に食べられるようになり、食事時間は1時間で収まるようになった。

 半固形物を食べるようになってお通じが心配されたが、排便の量や硬さ、排尿にも大きな変化は認められなかった。すべてが順調、ノー・プロブレムである。あとはリハビリによる筋力強化に重心を移し、年が明けたらデイサービスに通わせよう──私は介護プランを一気に上方修正した。

 デイに通うには車いすに慣れておかねばならない。テレビも長時間観ていられるようにと、仕事部屋のインテリアになっていた車いすを引っ張り出し、半年ぶりに移乗訓練を再開した。しかし、ここでまた不測の事態に遭遇する。

 ベッドから車いすに乗せるときはいいのだが、ベッドに戻して横になると5分ほどで気分が悪くなり、胃の内容物を戻してしまうのだ。それもほぼ毎回で、その都度バシャマやTシャツを着替えさせた。

 なぜだろう。移乗の介助に問題があるのではと思い、看護師や理学療法士を前に実演してみせたが特に悪いところはないという。医師のアドバイスで、寝かせる前に45度の姿勢をしばらく保ってみたが、結果は同じだった。

 なぜか車いすが絡むと問題が起きる。原因は今も不明だ。調子に乗り過ぎた罰なのか、はたまた時期尚早なのか……。これにより、車いすに乗せる気力は再び萎えてしまった。

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