韓国は「アグレマン」前に駐日大使を発表した 「北朝鮮一点買い」で延命図る文在寅

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本音は4月のソウル・釜山市長選

――文在寅政権はなぜ、北朝鮮との関係改善をこんなに急ぐのでしょうか。

鈴置:権力の維持です。証拠があります。先ほど引用したハンギョレの「<インタビュー>『日本は植民地支配賠償金カードを切って北朝鮮に接近するだろう』」。外交の作戦計画書とも呼べる記事ですが、原文の韓国語版はもっと長い。削られている部分に本音が書かれています。

 韓国語版の「来年4月の補欠選挙の前に南北対話・北朝鮮と米国の対話も本格軌道に載せよ」(11月18日)から「本音部分」を翻訳します。チョ・ソンニョル諮問委員の発言です。

・米国の事情だけではなく国内政治の日程も考慮せねばならない。来年4月にソウル・釜山市長の補欠選挙がある。上半期を過ぎれば大統領選挙が本格化することだろう。
・その前にいち早く南北対話、朝米対話に動力を与え、対話を本格軌道に上げねばならない。
・来年春までに我が政府が北朝鮮との信頼を維持することで、引き続きパイプを保つことが重要だ。来年4月前に、朝米対話に持って行くカードを作らねばならない。

ことごとく失敗した経済政策

――要は、選挙対策なのですね。

鈴置:その通りです。2021年4月のソウルと釜山の市長選挙は、2022年5月の大統領選挙の行方を大きく左右します。ところが両市長選挙ともに、与党「共に民主党」には強い逆風が吹いています。

 補欠選挙を実施することになったのも両都市で相次ぎ市長のセクハラ事件が発覚、辞任に追い込まれたからですが、両市長はともに「共に民主党」所属でした。「次の大統領候補」の呼び声もあったソウル市長は自殺しました。

 政府系紙、ハンギョレがこの記事を通じ、左派に必勝の決意を固めて選挙に臨むよう呼びかけた感があります。見出しからして「4月の選挙の前に」ですからね。

――米朝対話や南北対話で票が稼げますか?

鈴置:それしか選挙で勝つ材料がない、というのが正確です。不動産政策の失敗で家を持たない若者や貧困層の間で――つまり、左派「共に民主党」の支持層で不満が高まっています。

 文在寅政権の経済センスは恐ろしく悪く、打つ手打つ手がことごとく問題を悪化させてきました。来年4月までに不動産問題が解決するとは誰も考えていないでしょう。

 雇用問題でも若者や貧困層の支持を失っています。最低賃金を2年間で30%も引き上げるという無謀な政策で、コンビニなど零細企業の廃業を誘発、若年層の失業率を高めてしまったのです。

 そこで切り札として北朝鮮カードを取り出したのです。が、米朝首脳会談が実現し、それを韓国が仕切ったように見せても、文在寅政権の人気が急上昇するとは考えにくい。

 一方、南北首脳会談はそもそも北朝鮮が容易に応じる可能性は低い。米国や日本との関係さえしっかりすれば、韓国に頼る必要はないからです。

大量投獄の報復を恐れる左派

――それでも、無理筋の北朝鮮政策に賭ける文在寅政権……。

鈴置:今、この政権を突き動かしているのは2022年の大統領選挙で政権を失うことへの恐怖です。引退した大統領には悲惨な末路が待つ国です。

 国外に亡命するか、暗殺されるか、監獄に入るか、子供が収監されるか、自殺するか――。名目的な大統領を除けば、歴代大統領はすべてこのいずれかの道をたどりました。

 ことに文在寅政権はやりすぎました。李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)という2人の大統領経験者を監獄に放り込んだうえ、引退した最高裁長官や将軍を裁判にかけました。

 朝鮮日報・楊相勲(ヤン・サンフン)主筆の「懲役合計100年 『積弊士禍』の陰の理由」(2018年3月22日、韓国語版)によると、2018年3月段階で保守政権時代の官僚ら110人が起訴、60人弱が拘束されました。長官・次官級だけで11人が収監されました。

 もし、保守が次の政権を握れば、激しい報復に出るのは目に見えています。文在寅政権はどんな手を使っても権力を左派でつながねばならないのです。

3回も指揮権発動

――そこで日本まで猿芝居に巻き込んでの延命工作に乗り出した。

鈴置:それには留まりません。法治も破壊し始めました。現政権の不正を暴く検事総長を辞任に追い込もうと、法務部長官が懲戒を請求し、職務停止処分を下しました。このために4か月に3回も指揮権を発動しています。

 検察官は一斉に非難の声が上げましたし、保守系紙も「黒幕」として文在寅大統領を激しく非難しています。その大統領は検事や裁判官らを裁く機関で「文在寅のゲシュタポ」と揶揄される高位公職者犯罪捜査処を設立します。

 もう、三権分立などどこにもありません。韓国政治は病み、その膿が外にも染み出してきたのです。

――日本を騙す陰謀も激しい内部対立が原因なのですね。

鈴置:韓国が常識あるまともな国として存続するのか、分かりません。韓国はいつでも核武装を宣言できるよう、準備を着々と進めてもいます。

 そんな国とは話し合う以前に、次にどんな危険な行動をとるのか見定める必要があります。高速道路であおり運転に遭遇した時、車から降りて話し合ってはいけないのと同じことです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月1日掲載

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