韓国は「アグレマン」前に駐日大使を発表した 「北朝鮮一点買い」で延命図る文在寅

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バイデンに「誠実な韓国」訴え

――なるほど!「知日派ほど関係を悪化させる」という意味が分かりました。

鈴置:「いまだに対日コンプレックスが強いからこそ、こんな発言をするのだ」と恥ずかしがる韓国人もいます。が、少数です。今、多くの韓国人が「日本を超えた我が国」に酔っているのです。

――では、なぜ、そんな人を大使に任命したのでしょうか?

鈴置:「韓国が日本との関係改善に積極的に動いている」との演出の一環と思われます。2021年1月20日、米国でバイデン(Joe Biden)政権が発足する見込みです。

 新政権は日韓に関係改善を求める可能性が極めて高い。そこで今から、「誠実な韓国」というイメージを作り始めたのです。

 政府系紙のハンギョレが、文在寅(ムン・ジェイン)政権の新たな外交戦略を詳報しました。そこでも、このイメージ戦略が語られています。

<インタビュー>『日本は植民地支配賠償金カードを切って北朝鮮に接近するだろう』」(11月19日、日本語版)は国家安保戦略研究院のチョ・ソンニョル諮問委員に聞いたものです。

 国家安保戦略研究院は韓国の情報機関、国家情報院のシンクタンクです。朴智元(パク・チウォン)院長が11月8~11日に訪日したことからも分かるように、同院は外交部に替わって外交を指揮し始めました。その意味からも見逃せない記事です。「誠実な韓国」部分は以下です。

・先日の「ASEAN(東南アジア諸国連合)プラス3」首脳会談で文在寅大統領が日本の菅義偉首相に親密に呼びかけたり、朴智元院長が日本を訪問して、文在寅―菅宣言を提案したりしている。ここには様々な布石が敷かれている。日本が韓国の提案を受け入れるなら、最も望ましい。
・もしこれもだめだったとしても、米国が韓日関係の仲裁に乗り出した際には、韓国政府はすでに韓日関係の回復に向けて努力してきているということを伝えることができる。

アグレマンで「王手飛車取り」

――はっきりと「誠実な韓国」像作りを謳っていますね。ただ、「知日派大使の任命」が、どれほど効果を発揮するものでしょうか。

鈴置:「誠実な韓国」以上に「不実な日本」を訴える効果があります。姜昌一氏は日本を見下すだけでなく、2011年5月にロシアの許可を得て北方領土の国後島に上陸したことがあります。

 日本が姜昌一氏に大使としてのアグレマン(同意)を出せば、韓国は「ロシアの領有を日本が認めた」と世界に宣伝することが可能になります。

 逆にアグレマンを出さなければ、韓国は米国に向かって「日本は知日派大使を拒否し、韓日関係をますます悪化させた」と訴えればいいわけです。「王手飛車取り」の罠です。

――そこまで考えているでしょうか?

鈴置:考えていると思います。状況証拠は多々あります。普通、アグレマンを貰うまで、大使の人事は秘密にするものです。アグレマンが出ない時に、両国の亀裂が表面化するのを避けるためです。

 ところが韓国政府は内定段階で堂々と発表した。これがまず、怪しい。大使交代に仕掛けられた罠を見抜いた日本が「姜昌一氏にはアグレマンを出さない」と拒否する可能性がある。そこで見切り発車して発表したのでしょう。

 ソウル新聞のファン・ソンギ論説委員は「<横糸縦糸>姜昌一内定者」(1月24日、韓国語)というコラムで「日本への内定の通知は発表のたった1時間前だった」と書いています。

 アグレマンは得ていないものの、とにかく発表前には通告したから日本は文句を言うな、ということでしょう。

日本政府を「煽る」韓国紙

「韓国政府の罠」を疑わせるもう1つの理由が、「国後上陸の過去」を言いたてたのが韓国紙であることです。ソウル新聞の同じ記事「<横糸縦糸>姜昌一内定者」に以下のくだりがあります。

・(姜昌一氏は)日本がロシアと領土問題を争っているクリル4島を訪問し、日本の政官界から顰蹙を買うなど戦略的・組織的志向が不足するとの批判が多い。
・「韓日最大の懸案である強制動員問題の解決に助けにもならない人物を送っておいて、日本に誠意を見せたと言われても困る」との酷評も日本にはある。

 朝鮮日報の李河遠(イ・ハウォン)東京特派員は翌25日、さらにはっきりと、北方領土を訪れた人物に日本はアグレマンを出すのか、と疑問を投げかけました。「日本、姜昌一内定者に反発の動き」(韓国語版)からポイントを訳します。

・姜氏は2011年5月、国会独島特別委員会委員長の資格で他の議員2人と、韓国の政治家として初めてロシアが主権を行使するクリル列島の国後島を訪問した。
・当時、民主党の菅直人政権は深い遺憾を表明。日韓議員連盟はこれを問題視、訪韓を延期しもした。自民党幹事長代行を務めた稲田朋美議員は国会で姜氏らに対し「入国禁止をとるべきだ」との批判を繰り広げた。
・このような背景から自民党の強硬派は姜内定者への不快感を表明している模様だ。姜内定者に対するアグレマンの手続きが難航したり、長期化する可能性もあると見られている。

 いずれの記事も「安易な人事」を決めた自国政府を批判するノリで書いています。ただ、少なくとも結果的には日本政府に「アグレマンを拒否する根性はないのか」と挑発したことになります。

 後者の記事は見出しを「日本、反発の動き」ととっていますが、記事中にそれを支える具体的な事実は挙げていません。

 韓国の外交官と思しき「東京の消息筋」が「(日本の)外務省内には北方四島に対するロシアの領有権を認めた人物にアグレマンを出すことはよろしくない先例となる、との主張もある」と語った、とあるだけです。韓国政府が「アグレマンを出すな」と煽っている感じもします。

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