映画「鬼滅の刃」ヒットの裏に音楽 「主題歌」「劇伴」の魅力を読み解く

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伊藤監督が語る梶浦、LiSAの魅力

 そして映画「鬼滅の刃」で重要なのが、エンディングで流れる、LiSAが歌う主題歌「炎」。作曲、作詞(LiSAと共作)を担当しているのが梶浦で、今回の劇場版では「炎」と、劇中で使われるそのアレンジバージョンを担当している。

「劇場版SAO」「僕だけがいない街」などで梶浦と仕事をした経験のある伊藤監督は、その楽曲の特徴についてこう語る。

「怨念があるというか、どろっとした感じ。何か裏にドラマチックなものを感じさせる音楽です。『魔法少女まどか☆マギカ』エンディング曲の『Magia』や『僕だけがいない街』エンディング曲の『それは小さな光のような』など歌詞がある曲のほうが、より情念が強く、より熱量のあるものになっているのではないかと思います」

 そこに作詞と歌唱を担当するLiSAの力が加わる。「SAO」シリーズで主題歌を歌ったLiSAについて、伊藤監督は作品理解度の高さを挙げる。

「私はなるべく、劇伴作家は元よりオープニングやエンディングの担当者、可能なら歌う本人や作詞家、作曲家と会って、アニメ本編はこんな思いで作っていると説明する機会を用意してもらうようにしています。『SAO』アニメ2期のエンディング曲にLiSA本人が作詞している『シルシ』という曲があるのですが、若くして死んでしまう登場人物の当事者側と、残される側の気分を、こちらが伝えなくても歌詞で表現してくれました」

 伊藤監督は梶浦、LiSAとテレビアニメ版から関わる2人が劇場版『鬼滅の刃」の主題歌を担当したことで、より作品への没入度が高まったのではと推測する。

「歌物は特にエモーショナルな働きをしてくれるので、本編上で聞こえていた楽曲が最終的に主題歌で流れることによって、より感情的に聞こえる。また主題歌と劇伴が似たイメージならば、エンディングで流れる歌が、より統一感を持って聞こえるという作用もあるかと思います。『鬼滅の刃』では、唐突に有名ミュージシャンを主題歌に起用するのではなく、テレビ版から関わる梶浦さんが曲を作ることで、『作品』というパッケージにまとめることができたのではないでしょうか」

 これまで劇場アニメでは、ゲスト声優や作品に合わないミュージシャンの主題歌を起用するなど、ファンが納得しないタイアップが多かった。劇場版『鬼滅の刃』の大ヒットは、そうした忖度なく、素直にテレビ版からアップデートした作品をファンに届けたことが熱狂的な支持を生んだといえそうだ。

徳重龍徳(とくしげ・たつのり)
ライター。グラビア評論家。大学卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。記者として年間100日以上グラビアアイドルを取材。2016年にウェブメディアに移籍し、声優、アイドルなどのインタビューを担当。現在は退社し雑誌、ウェブで記事を執筆。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月1日掲載

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