渡辺直美、壮絶な生い立ちから「吉本の宝」へ ノブコブ徳井が明かす天才の素顔

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モノマネで日本語を覚える“聴力”

 渡辺直美はそんな芸人たちの中でも、格別にクレイジーで破格に面白い奴だ。

 2010年にピースと平成ノブシコブシ、それに渡辺直美とでお芝居をやったことがある。又吉くんが脚本を書いてくれたそのお芝居、『咆号』は世界の終末がテーマだった。

 半年後に再演もされ、そこそこ人気が出たのだが、さすが後にドラマ主演を射止めるほどの「俳優」渡辺直美。その舞台での演技も上手で面白くて、そして抜群の存在感だった。

 直美は当時ピン芸人になってからまだ4年目だから、今考えると本当に肝がすわっている。

 ただ、話はこれだけでは終わらない。

 この舞台のことを後に直美と喋っていたら、衝撃の事実が判明した。あの頃の直美はそれほど日本語が流暢だったわけではなく、台本に書かれたセリフの意味がほぼ分からないまま、ただ淡々と覚えていたらしい。しかも当時は母親から聞かされていた台湾なまりのせいもあって、自然なイントネーションで発音できない。

 だがそこも、自慢の“モノマネ聴力”で矯正しつつ舞台に立っていたという。

 これはとんでもないことだ。

 英語の分からない日本人の若手俳優が、単身アメリカに行き意味の分からない英語の台本を渡され、それをそのまま、自然なイントネーションも含めて丸ごと暗記するようなもの。しかも本番はNGが許されない、生の舞台だ。そんな離れ業をたった一つの弱音も吐かずにこなしていたわけだ。

 直美は強い。いや、負けず嫌いなんだろう。死ぬほどの負けず嫌い。

 その負けず嫌いが生まれ育った環境によって培われたものだとしたら、辛い過去も芸人にとってはある意味で養分なんだなというのは、都合のいい解釈か。

性生活のことまであけすけに…

 いずれにしても、彼女の才能と努力と忍耐力は、照れくさいから彼女の前では口にこそ出さないものの、本当に尊敬しているし誇るべきことだと僕は思っている。 

 若手時代、直美と楽屋で顔を合わせればお互いの家族のことをいじり合っていた。ギリギリまで笑わないように頑張るが、いつも僕の方が負けて笑ってしまう。

 なんでそんなに不幸を笑えるの? 端から見ればそう思うかもしれない。けれど多くの芸人は、信じられないような不幸の渦中にいても、そこまで不幸だなんて思っちゃいない。

 僕の母親は重度の精神病を患い最期は自殺してしまったが、そのことを自分の負の部分だとは思ったことがない。いや、思わないことは逃避なのかもしれないが、それを不幸だと思うことの方が不幸なことだと肝に銘じて生きている。

 そうやって若手時代を僕らと過ごしてしまっていたせいか、直美は自身のことを隠さず、性生活のことまでもあけすけにペラペラと舞台で喋る。ものすごく生々しい内容にもかかわらず、引くどころか会場はいつも大爆笑に包まれる。

 以前アメリカへ行った時エレベーターの中で起きた黒人さんとのハプニング、インスタグラムのDM経由で見ず知らずの人と会った時の話、テレビの音声さんとの淡い恋、とある消防隊員との付かず離れずのランデブー……。

 詳しくは直美本人の口から聞いてもらうとして、こんなことを繰り返しているから、当然僕は直美を女性として見たことが一度もない。

 ただの後輩、ただのニューヨーカー。

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