米大統領選に熱狂する「政治アカ」への違和感 日本への影響は限定的では(中川淳一郎)

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 先日、新聞社から「米大統領選における日本のネットの空気感」について取材されたので、「自民党支持者と野党支持者の代理戦争の如き状況になっている」と答えました。私はネットウオッチが仕事であり趣味なのですが、大統領選をめぐっては、政治に関心の高いツイッターユーザーの皆さんが主張しまくっているのを、9月頃から見続けていました。

 もともと自民党支持者は「我らが安倍首相と仲が良いトランプ大統領こそ再選すべし!」と主張していましたが、野党支持者は「トランプみたいな排外主義者で下卑た人間が当選してはいけない!」と訴えます。

 いわゆる「政治垢(せいじあか=政治に関心があるアカウント)」の皆さんは日本国内の支持政党を、そのまま米国の共和党・民主党支持に重ね合わせていたのですね。

 日本人のトランプ支持者は、「バイデンが勝ったらアメリカは中国と同調し、赤化する」「バイデンの次男のセックススキャンダルは許せない!」としきりに喧伝しました。一方、バイデン支持者は、とにかくトランプは世界に混乱をもたらした暴君で、コロナ対策も最悪だったと言います。

 あのさぁ、別にオレら日本人はアメリカの選挙権持っていないんだから、大統領選を自分ごと化する必要ねーだろうよ。それともお前らはミャンマーの総選挙とかでもそこまで盛り上がるのかよ?とも思いました。

 確かにアメリカの選挙結果は日本にも大いに影響を与えるものの、今回は、ネットでの「熱」があまりにも高くて、違和感を覚えたんですよね。

 それは「安倍ちゃんと仲が良いトランプさんに勝ってほしい!」「アベのような独裁者とベッタリだった暴君トランプは退陣すべきだ。頼むぞ、正義の使者・バイデンさん!」といった具合に、「政治垢」の皆さんは、日本の政情を米国に投影したのではないでしょうか。

 そんなこんなで、日本人は蚊帳の外であるにもかかわらず、米大統領選がネットでもメディアでも盛り上がったのでしょう。バイデン氏の勝ちらしいですが、まぁ、日本がそれほど大きな影響を受けることはないのではないでしょうか。別に民主党政権だろうが共和党政権だろうが、さほど違いはない。どちらにせよアメリカという国は「自国ファースト」です。民主党のクリントン氏・オバマ氏でも、共和党のブッシュ氏・トランプ氏でもさほど変わらなかったじゃないですか。だからいちいち日本人が代理戦争のごとく米大統領選に熱狂する意味が分かりません。

 ところで私は現在、佐賀県唐津市に住んでいます。先日、BBQパーティーがあって、参加者のイギリス人男性に、「トランプとバイデン、どちらが勝つかによってアメリカ及び世界は変わりますか?」と聞いたところ、こう言われました。

「あのよぉ、バイデンって左翼と思われてるけど、正直、アメリカの左翼なんてヨーロッパの中道でしかない。オレらからするとなーんにも変わらないよ。別にトランプだって、『ちょっと右』程度。何をいちいち『バイデンになると左傾化する』とかやってるの。オレらからすりゃ全然たいしたことない。放っておけばいい」とのことです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年11月28日掲載

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