浮気した妻が「DVをでっちあげ」 子供を奪われた男性が語る「日本のおかしな現実」
取材に駆けつけた世界のジャーナリストたち
その頃、母国オーストラリアでは、彼の逮捕が大ニュースになっていた。英紙「ガーディアン」の記者が拘置所のスコットを訪ねて取材し、12月19日に、「元SBS記者のスコット・マッキンタイヤが子供たちを探していたら、日本で逮捕された」とスクープしたのである。豪主要紙「シドニー・モーニング・ヘラルド」も続き、2日後、「豪人の父親が親権争いの最中に日本の拘置所に収監される」と報じた。
年が明けた20年1月10日、保釈金を支払ったスコットは保釈される。外では外国人メディアが待ち受けていた。彼は友人が用意してくれた「片親誘拐 STOP PARENTAL CHILD ABDUCTION」と書かれたシャツを着て、憤然とカメラの前に立った。
「もう250日以上、子供と会えていません。私がここに立っているのは、これまで多くの子どもを連れ去られた、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、アメリカ、アジアの親の代表としてです。我々が求めているのはたった一つ。日本の親権のシステムを変えることです。日本は先進国の中で唯一、共同親権がないのです」
1月15日、東京地裁はスコットに、懲役6カ月、執行猶予3年の有罪判を下した。その後、彼は再び「片親誘拐」のシャツを着て、内幸町の日本外国特派員協会で講演した。
スコット釈放や有罪判決を、「ロイター通信」は「子供を探して不法侵入で逮捕された豪人男性が釈放」と、米紙「ワシントンポスト」は「日本が子供に会おうとした豪人男性が有罪に」、英国営放送「BBC」は「子供訪ね住居侵入で起訴の豪男性、日本で有罪。共同親権訴える」という見出しで報じた。
これまで世界の名だたるメディアが、スコットの話を日本の司法制度への批判と合わせて記事にしてきた。だが、彼はこう言うのだ。
「私は日本のメディアの取材を受けるのは、あなたが初めてです」
同じ境遇の仲間たちと作った1本の動画
勾留されている間に、住んでいたマンションは解約されてしまい、スコットは住むところも失った。
「心は折れそうでした。でも、帰国しようとは考えませんでした。もし日本を離れてしまったら、もう二度と子供たちに会えなくなってしまうかもしれない」
彼は友人宅を転々としながら、子供たちを探し出す決意を固めた。5月には慰謝料を求めて妻を提訴。離婚調停は不調で裁判に移行し、面会調停も継続中だ。オーストラリア政府に掛け合い、外交問題として日本政府に働きかけてもらう陳情も続けている。
先日、オーストラリア外務省は、インターポール(国際刑事警察機構)に子供たちを行方不明者として登録してもらう手続きを進めると、スコットに連絡してきたという。モリソン首相も彼を含めた自国民の連れ去り被害を憂慮しており、政府として日本政府に問題解決に向けて働き続けているという。
なお、前述した「ハーグ条約」はスコットには適用されない。ハーグ条約は、国境を越えた連れ去りを禁ずるものであり、彼が連れ去られた場所は国内だったからだ。
スコットは、これらの活動に加え、子と親を引き裂く日本の法制度の不条理さを世に訴えようと、「JAPAN CHILDREN RIGHTS」という外国人連れ去り被害者の団体に加わった。
彼らが作った1本の動画がある。それは5月5日YouTubeに配信された。
〈5月5日は日本では子どもの日です/しかし、片親の中にはそのお祝いから除外されている人達がいます…〉
動画はこのメッセージが表示されるところから始まる。最初に登場するのはスコットだ。彼はカメラを切実な眼差しで見つめ、一言、こう英語で訴える。
「子供に会いたいです」
続けて画面には「子供達と会っていないのは、356days」というメッセージが映る。その後、ほかの連れ去り被害者たちも順番に登場する。リトアニア人、フランス人、韓国人、アメリカ人、オーストラリア人、イタリア人、そして最後に日本人。彼らは、ただ一言、それぞれの母国語で、「子供に会いたい」と訴える。「1461days」「634days」「440days」「3607days」……。画面上に、彼らが悩み抜いてきた、重く長い日数が流れていく。
僅か2分間の映像であるが、いかに日本の連れ去り問題が国際社会で軋轢を生んでいるかを考えさせられる動画である。
子供たちに会える日が来るまで日本に残り続けます
この日本語で編集された動画の再生回数は6700回に過ぎない。彼らの声は、この日本で届いているとは言えないのである。だが、スコットはこう言うのだ。
「たった一人でもいい。この問題を理解してもらう人が増えることが大事なのです。その人が周囲に広げてくれるはず。その積み重ねで、いつかは世の中を動かす力になる。だから、私はこれからも『子供たちに会いたい』と叫び続けます」
そして、まなじりを決してこう訴えるのだった。
「早く子供たちに会ってこの手で抱きしめたい。『ずっと探していたよ』と言いたいです。その日が来るまで私は日本を離れません」
デイリー新潮は、妻側に代理人弁護士を通して取材を申し込んだが、「係争中のため取材には応じられません」との回答だった。
彼の配偶者ビザは2022年の4月には切れる。残された時間は、あと約500日。それまでに、カウンターが止まる“奇跡”は訪れるだろうか。
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