株爆上がり中の「仲野太賀」 高校生から中年まで違和感なくこなす演技力!

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 秋のタイガ祭り。一向に麒麟が来る気配がない大河じゃなくて、仲野太賀のほうである。何を観てもちょいと出てきては爪跡を残す。キャリアは長いし、演技はうまいし、30代半ばの中堅俳優だと思ってたら、まだ27歳!! ウィキペディアで気づいたのだが、ドラマも映画も舞台も、私の好みの作品に実に多く出演していたために、勝手にベテランと思い込んでいたようだ。

 そんな太賀をみすみす逃すはずもないのが、テレ東である。南海キャンディーズ・山里亮太の短編小説をドラマ化、主演に太賀を据えたのは大正解だった。高校生から中年まで、まったく違和感なく演じる太賀が、若手女優を餌に妄想を繰り広げる山ちゃんを完璧に再現。完コピ。「あのコの夢を見たんです。」である。

 イヤでも視線を顔の中央に寄せてしまう、あの赤い眼鏡を見事に使いこなし、山ちゃん特有の僻み根性丸出しなのに、想像以上に爽やか。若手女優に対する山ちゃんの妄想と聞いて、辟易間違いなしと思っていたのだが、意外とSF、案外胸キュン。それもこれも太賀が巧いからではないかと。

 ドラマの主役でありながら、妄想劇中では毎回のゲストである若手女優たちの魅力を十二分に引き出していく。主演だからこその引き算で、存在感のなさという大役を果たしているのだ。個人的には、芳根京子の回の俗っぽさと、大原櫻子の回の脱皮感が好きだったな。

 一方、TBSの火曜22時枠、いわゆる胸キュン恋愛枠にも出演している。コンビニの本社でスイーツを開発する部署が舞台で、太賀は見事に咬ませ犬としての役割を果たしている。「この恋あたためますか」だ。

 元地下アイドルで熾烈な生存競争に敗れ、やさぐれていた女性が、コンビニスイーツの開発メンバーに突然駆り出され、やり手の外様社長に心も懐もドブ漬けにされるシンデレラ・ストーリー。あ、ダメだ。心が汚れた私には美しく紹介できない。騒々しくて無礼なはねっかえり娘が、金満腹黒エリート男に技術とアイデアと恋心を搾取されながら、一般常識と社会性を学んでいく成長物語。これもダメだ。悪意しか出てこない。要するに面白くないの。

 主演の森七菜をはじめ、中村倫也、石橋静河、古川琴音、市川実日子に田村健太郎、そして仲野太賀。独特の雰囲気を持ち味とし、映画や舞台で心を奪い去るポテンシャルの高い俳優をこれだけ集めておきながら、設定と展開が都合よすぎて、稚拙に見える。コロナ禍でも黒字のコンビニ業界に、魂売ったのかと勘繰るほど。

 七菜も倫也もありきたりのいかにも、なステレオタイプの役柄で、腕の見せ所が少ないのは残念。そんな中、恋愛モノに必須の咬ませ犬として太賀が脚光を浴びている。他の役どころが凡庸すぎて、太賀の株だけ爆上がり。そりゃ心を奪うよ。表情だけでも微細な感情を出せるのに、壁ドン再起動スイッチに合意なきキスと腹黒い掛け算も施され、ひとり激情装置と化す太賀。ま、でもこれを機に大役が増えれば嬉しい。チョロっと母の気持ちで見守る。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年11月26日号掲載

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