「丸佳浩」、「イチロー」、「金本知憲」…日本シリーズで絶不調に陥った“逆シリーズ男列伝”

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 プロ野球で頂点に立つチームはどこなのか。今年も日本シリーズが始まったが、短期決戦では、チームの主砲が調子を取り戻せないまま終わってしまうケースもよくある。そして、この“逆シリーズ男”が、両チームの明暗を分けることも少なくない。

 最も記憶に新しい逆シリーズ男は、巨人・丸佳浩だ。FA移籍1年目の昨季、3番打者として打率.292、27本塁打、89打点で5年ぶりのリーグ優勝に貢献したが、ソフトバンクとの日本一決戦では、13打数1安打1打点6三振の打率.077と絶不調。同じく.077に終わった坂本勇人とともに、0勝4敗でストレート負けの“戦犯”と言われた。皮肉にも丸は、広島時代の2018年の日本シリーズも25打数4安打3打点12三振の打率.160に終わっており、2年連続で逆シリーズ男の汚名を着ることになった。

 言い換えれば、両年とも、ソフトバンクの“封じ込め作戦”がハマったわけで、相手の強打者を逆シリーズ男のまま眠らせておくことも、日本一になるための条件のひとつだ。

 これとは反対に、逆シリーズ男を目覚めさせて墓穴を掘ったのが、89年の近鉄だ。3勝1敗と王手をかけた第5戦、初戦から18打席連続無安打の巨人の主砲・原辰徳を安パイと見て、前打者を敬遠して勝負した結果、痛恨の満塁弾を浴びた。

 同年、3連敗から4連勝した巨人の逆転日本一は、3連敗直後の「巨人は(パの最下位)ロッテより弱い」発言に奮起したという話が定説化しているが、原が目覚めた第5戦も、大きなターニングポイントと言えるだろう。

“ON決戦”と呼ばれた00年の日本シリーズでは、ダイエーの松中信彦が逆シリーズ男になった。松中は第1戦の7回に工藤公康から同点2ランを放ち、逆転勝ちを呼び込むなど、出足は快調だった。ところが、この一発を最後に、巨人の6年ぶり日本一が決まった第6戦まで20打席連続無安打と沈黙してしまう。

 本拠地・福岡ドームが別団体に貸し出された割りを食う変則日程や4番の小久保裕紀が第3戦で左脇腹を痛めて残り試合を欠場するなど、めぐり合わせの不運もあり、「毎試合、気分を切り替えているのですが、こればっかりは仕方がないです」と本人もお手上げ。簡単に修正が利かない短期決戦の難しさを痛感させられた。

 一方、連敗スタートとなった巨人は、2試合続けて当たりが止まっていた高橋由伸と江藤智が第3戦以降調子を取り戻したことが4連勝の追い風に。シリーズ男と逆シリーズ男は、表裏一体でもあるのだ。

 シーズンMVPに輝いた“V請負人”が、悪夢の逆シリーズ男になってしまったのが、05年の阪神・金本知憲だ。

 打率.327、40本塁打、125打点でチームの2年ぶりVに貢献した金本だったが、シリーズでは、別人のように打撃不振に陥る。第1戦の1回1死一、二塁の先制機に遊ゴロ併殺打。第3戦でも1回2死二塁の先制機に二ゴロ、6回2死三塁でも一ゴロに倒れるなど、ことごとくチャンスで凡退した。

「このまま終われない? そりゃそうよ。打つしかない」と心機一転臨んだ第4戦、4回に12打席目で初安打を放ったが、1点を追う8回1死一塁で三振に倒れ、岡田彰布監督も「調子悪いな。甘い球をミスショットしているし、本当に打ち取られている」と嘆き節。頼みの主砲が13打数1安打0打点では、ロッテに0勝4敗のストレート負けも致し方ないところだ。
 
 シーズン中なら、主砲が4試合で1安打でも、大勢にあまり影響はないが、シリーズではそれが致命傷になりかねないのだ。

 楽天が初の日本一を実現した13年は、巨人・阿部慎之助が逆シリーズ男になった。シーズンでは4番・捕手・主将として打率.296、32本塁打、91打点とチームの精神的支柱の役割をはたしたが、シリーズは第5戦まで14打数1安打1打点の打率.071。

 2勝3敗と王手をかけられた第6戦では、2打席目に田中将大からシリーズ初長打となる左中間二塁打を放ち、復調気配を見せたものの、第7戦では1回2死一、三塁の先制機に投ゴロに倒れるなど、4打数無安打。通算22打数2安打の打率.091に終わり、「短期決戦の難しさがあった。焦りや力みをどうやってコントロールしていくか、対策が必要」と反省しきりだった。

 原監督が「ウチは慎之助のチーム」と信頼するほどの選手でも、初戦からリズムに乗れないと、余裕をなくし、悪循環に陥ってしまうのが、短期決戦の怖さである。

 マスコミを使った陽動作戦で、相手チームの強打者を逆シリーズ男に仕立て上げたのが、95年のヤクルトだ。

“イチローシリーズ”と呼ばれた同年、野村克也監督は、2年連続首位打者のオリックス・イチローを封じるべく、スコアラーを動員してデータを集めたが、これといった弱点は見当たらない。

 そこで、ハッタリをかまして、「イチローの弱点は内角高め」とマスコミを通じて喧伝した。意識して術中にはまってくれたら儲けものというわけだ。

 はたして、イチローは、思い切って内角を突いてくるヤクルト投手陣を前に、詰まった飛球を連発。独特の振り子打法も、ゆったり感がなくなり、自ら「気持ち悪いスイングをした」と表現するほど。第4戦まで16打数3安打1打点。イチローの不振が伝染したかのように、他の打者まで振りが鈍くなった。

 それでも天才打者は、第5戦では1回にブロスの内角高めを狙い打ちし、先制ソロを放つなど、3打数2安打と軌道修正してきたが、遅かった。この試合でもオリックスは敗れ、ヤクルトの日本一でシリーズは幕を閉じた。

 いかにして逆シリーズ男を作り上げるか。これもシリーズの重要戦略である。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2019」上・下巻(野球文明叢書)

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月24日掲載

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