医師が明かす「コロナを恐れる必要がない理由」 死亡者は前年比減少、治療法も大きく進歩
人工呼吸器にまでいかない
ワクチンができるまでは、とよく言うが、寺嶋教授は、
「治療の手段、持ち駒が増えたし、推奨されている薬を迷わずに使えるようになった。だから重症化率が下がったのです」
と、臨床現場の現況について報告するのである。感染症に詳しい浜松医療センター院長補佐の矢野邦夫医師も補足して言う。
「感染者の8割以上を占める軽症者には、発熱したら熱さましという対症療法で、本格的な治療の対象は、CTで肺炎が確認されるような中等度以上の人や、心臓が悪いなど基礎疾患がある人、そして高齢者です」
こうした患者にアビガン、デキサメタゾン、レムデシビルを使うという話は、寺嶋教授と重なる。加えて、
「これまでは人工呼吸器を使ったような症例に、ネーザルハイフローという、鼻腔から大量の酸素を送る療法で対処できることがわかりました。人工呼吸器は管を肺まで入れるので、二次感染を起こす危険性があるうえ、本人も意識がなくなって負担が大きい。医療者にとっても、人工呼吸器の患者1人は、酸素療法の患者10人に匹敵するくらいの負担で、人工呼吸器をつける前に救えるということが、医療リソースを逼迫させないためのポイントです。大量の酸素による療法なら、患者に意識があってご飯も食べられます」
血栓についての寺嶋教授の話も紹介しておきたい。
「新型コロナウイルスの合併症として、血栓症が知られています。血栓が肺や脳の血管を詰まらせるのです。しかし、血液検査で血栓の数値が上がっていたり、画像検査で血栓が疑われたりという症例では、血栓ができにくくする抗血栓薬を早めに投与するようになった。このことも重症化率と死亡率の低下に寄与しています。感染流行の初期には、血栓ができることも知られていなかったわけですから」
テレビ等の報道を真に受け、新型コロナには「治療薬がない」と思っている人が多いが、治療法は確立されつつあるのである。
さて、感染者数の話に戻るが、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授は、寺嶋教授が述べたのと同じ理由で、
「冬に感染者が増加することは、当然予想できた」
と言いながらも、
「私の予想よりも増加速度はゆっくりで、いまのところコントロールされていると思います。1日あたりの新規感染者数が千人を超えましたが、それ以上増加すれば、みな慎重になる。そうすれば、いずれ再び減少すると思います」
という見方を示し、マスクの効用を説く。
「マスクは電車内やコンサートホール、映画館などではしなくてよいと思いますが、大声で喋る場所では必要です。マスクの目が5マイクロメートルなのに対し、ウイルスの大きさは0・1マイクロメートル。ウイルスが通ってしまうのでマスクは効果がない、と主張する人もいます。でも、ウイルスは唾液中や飛沫のなかにいるので、マスクで大きな飛沫の粒子をブロックすれば、あとは小さいものが漏れだすだけ。効果がないわけがありません」
電車のなかはもとより、人通りのない道路でもマスクを外さない日本人である。たとえば、大統領選の最中の映像にマスクをしない人が目立ったアメリカにくらべれば、感染しにくいことは容易に想像できる。
ネアンデルタールの遺伝子
ただ、これほどの感染状況の差を、はたして日本人の習慣だけで語れるだろうか。感染症に詳しいナビタスクリニック川崎の内科医、谷本哲也氏は、
「日本を含む東アジア地域の死亡率が低いのは、複数の要因が複雑にからみ合った結果ですが」
と前置きしたうえで、次のように語る。
「重症化のリスクファクターが見えてきて、一つがヒトの遺伝子の違いです。第3染色体中の特定の遺伝子群が、新型コロナへの感染による重症化に関係するという研究結果が10月15日、米『ニューイングランド医学誌』で発表されました。また、この遺伝子は一部の民族だけがネアンデルタール人から、数万年にわたり受け継いできたという研究結果も、9月30日に英誌『ネイチャー』に掲載されたのです。その遺伝子は欧米や南アジアの住人には1~4割程度存在する一方、アフリカ系や日本を含む東アジアや東南アジアの人々には、ほとんど存在していません。この分布の差が、世界の地域別の死亡率の差と大きく関連する、と考えられはじめています」
人の遺伝子以外にも、
「BCGワクチンなどの予防接種歴の有無も、重症化リスクとの関連が指摘されています。弱毒化ポリオやインフルエンザ等の予防接種により、あらかじめ免疫システムが鍛えられて、別の病原菌に対する免疫力も上がる、訓練免疫が獲得されると考えられるのです」
一方、東京大学名誉教授で食の安心・安全財団理事長の唐木英明氏は、
「そうしたファクターXについてはいろんな説が出ていて、ネアンデルタール人の遺伝子説などはとてもおもしろいですが、100%は信じていません」
とのことだが、同時に、
「ただ“おもしろい”ですませてはいけません」
と忠告する。その心は、
「こうしたファクターXは、まさに“X”で真相はわかりません。しかし、原因はわからないながらも、日本の死者数は欧米の100分の1だというラッキーな事実が大事です」
そして、「この状況」について、詳しくこう説く。
「再び感染者が増えている点は日本と欧米で共通でも、感染者数と死者数が決定的に違い、ともに日本は欧米の100分の1程度。海外の専門家と話すと“欧米とくらべたらなんの問題もないじゃないか”と言われます。そこで日本ではなにが問題なのかを考えると、医療関係者が訴える医療崩壊の恐れですが、欧米では日本の100倍の感染者を出しながら、医療崩壊を起こす手前で頑張っている。では、日本の医療のキャパシティは欧米の100分の1しかないのでしょうか」
まさか、そんなことがあるはずもなかろう。
「日本は新型コロナウイルスを、指定感染症第2類以上に指定してしまったため、軽症者も無症状者も病院に入れなければならず、医療に余計な圧迫を与えている。もう一つは、病院内で一人でも感染者が出たら世論に叩かれ、ひどい風評被害を受けるので、みな慎重になる。こうした2重の足かせのせいで、“大変だ”と騒いでいるのです」
唐木氏は、いまの状況の根底にあるのは、感染初期に日本人に植えつけられた恐怖感だと訴える。しかも現実に「第2類以上」だから、欧米にくらべればわずかな感染者の増加でも、医療はすぐに圧迫される。
「このままでは感染者数は欧米の100分の1のままでも、ロックダウンや外出自粛になりかねない。感染者が増えている北海道でも欧米にくらべれば100分の1程度なのに、すでに営業時間短縮やGo Toトラベルの中止が検討されています。原因は政治家のポピュリズムです。感染者が増えると政治家は非難され、一方、厳しくするほど人気が上がるという妙なことになっていますから。菅総理が“コロナ対策を第一に考える”と言うのも、まさにポピュリズムで、これ以上考えてどうするのか。本当のことを繰り返し伝え、国民の恐怖感を取り除く対策なら歓迎ですが、感染者数が圧倒的に少ないのに、恐怖感を煽るようなことをしてはいけません」
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