コロナ禍で注目 「新幹線」の「換気装置」がたびたび止まる理由とは?
なぜ停電が起きるのか?
なぜ停電が起きるのであろうか。
それは新幹線の車両への電力の供給方法と関係が深い。
新幹線の車両が使用する電気はすべて電力会社から供給される。
電力会社は、たとえば交流27万5000Vだとか交流18万7000Vといった非常に高圧の電気を新幹線が走るJR旅客会社に送電していて、JR旅客会社は自社で設置した変電所で電気を受け取ると同時に電圧を下げ、架線に流す。
新幹線の架線に流れている電気は公式には交流2万5000Vだが、実際にはもう少し高い交流3万Vが供給されている。
新幹線では変電所はおよそ20kmから50kmごとに設置され、数が多い。
というのも、新幹線の車両は超高速で走るためにほぼ常に加速している状態なので、たくさんの数の変電所を置いておかないと架線を流れる電圧が下がり、スピードを出せなくなってしまうからだ。
難しい話は置いておいて、要するに新幹線の換気装置が頻繁に作動を止めてしまうのは、それぞれの変電所が受け持つ送電範囲の境界を通過しているからだ。
境界地点では変電所から供給される電気を切り替えていて、このとき0.5秒以内と一瞬ではあるが車両への電力の供給が止まってしまう。
換気装置も車内の照明のようにバックアップ電源で作動させ続けられればよいが、いかんせん消費電力が大きいので、バッテリーで動かすことは無理だ。
停電している時間は0.5秒以下で、換気装置自体は再起動まで1秒前後を要しているものの、この程度の時間ならば別に車内が息苦しくなることはない。
実はJRの在来線や私鉄、地下鉄などの電車も変電所の境界を頻繁に通過する。
しかし、大多数の電車の換気装置は止まらない。これは新幹線の換気装置と比べて消費電力が少ないからではなく、架線に供給されている電気の種類が異なるからだ。
リニア中央新幹線の場合はどうか?
先に示したように新幹線の架線には交流が流れている。
交流は電流の強さと流れる向きとが周期的に変化する電気で、新幹線用の交流では1秒間に50回または60回変わっていく。
変化のリズムというか波形は変電所ごとに異なっているので、複数の変電所からの電気をまとめて車両に送ることはできない。
一方でJRの在来線の多く、私鉄の大多数、すべての地下鉄の架線には直流が流れている。
直流とは電流の大きさと方向とが時間的に変わらない電気で、複数の変電所からの電気が混じり合って車両に供給されても問題は起きないのだ。
ところで、JR東海は2027(令和9)年の開業を目指して中央新幹線品川-名古屋間の建設を進めている。
中央新幹線は通称、リニア中央新幹線と呼ばれ、超電導磁石の力で車体が浮上する超電導リニアの車両が最高速度時速500kmで営業する予定となっているのは知ってのとおりだ。
当然のことながら、超電導リニアの車両にも換気装置は搭載されている。
この場合は、浮き上がって走行する車両に対してどのようにして電気が供給されているのであろうか。
答えを言うと、ガイドウェイと呼ばれる線路の底の部分から車両に向けてワイヤレスで電気が送られているのだ。
このような仕組みを誘導集電と言い、鉄道車両用としては超電導リニアが世界で初めての採用例となる。
超電導リニアではガイドウェイの底の部分に敷いたコイルに交流6000Vの電気が流れていて、車両は電気をあたかも吸い上げるように車内に採り入れていく。
新幹線の場合は走行用の電力と一緒であったので変電所の境界が存在したが、超電導リニアの場合には境界はなく、車両に連続して電気を供給することが可能となった。
JR東海は理由をはっきりとは言わないが、どうやら換気装置など走行用に比べれば消費電力の少ない機器用に限られているので、一つの変電所で全線をカバーできるようだ。
ともあれ、超電導リニアの車両に搭載されている換気装置は途中で止まることも、再び動き出すこともなく、ずっと動き続けている。
こちらのほうが落ち着くという人は多いかもしれない。
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