「イージス・アショア」選考過程で不正か ロッキード社優遇、特捜部も捜査

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一方的な結果

 選考でLMSSRが選ばれる“その前”には、以下の過程があった。

 イージス・システムはアメリカ政府の管理するシステムのため、防衛省は2018年4月、MDA(米国ミサイル防衛庁)に、構成品の候補の提案を依頼した。MDAはそれを受け、6月、関連資料も含めれば1万ページ以上とされる「提案書」を防衛省に提出した。そこで提案されたのは、前述の「LMSSR」と「SPY-6」の二つの候補であったが、

「問題はその間の5月の出来事。そこで何が行われていたかが、ロッキード社の文書で図らずも明かされているのです」

 と前出の自衛隊関係者が説く。

 再度引くと、冒頭のロッキード社の内部文書には、

〈18年5月末 MDAより(中略)レーダー性能向上要求有り。LMよりMDA経由、防衛省へは能力向上型レーダー(LM SSR)(中略)での提案を実施〉

 と記されているが、

「ここから、二つのことが読み取れます」

 と自衛隊関係者が続ける。

「ひとつは本来、公正、中立的な立場から提案書を取りまとめる役割にあったMDAが、一方の当事者のロッキード社に対し、レーダーの『性能向上』を『要求』していたこと。もうひとつは、ロッキード・マーティン社、つまり、文中の『LM』がそれを受けて、レーダーの『性能向上』を図るべく、『LMSSR』を提案した、ということです」

 これの何が問題なのか。

「MDAは競合するSPY-6の情報にも触れることができた。そのMDAが応札中の特定の民間事業者に対して、選定の結果に直接影響するような『要求』をしていたというわけです」(同)

 先に述べたように、SPY-6は現物がこの時点であったのに対し、LMSSRはそれがない。あくまで「構想」段階の製品である。

「それゆえ、『性能向上』を『要求』されても行いやすい。現物があるSPY-6と比べて、かなり有利なものが“作れた”はずです」(同)

 これを卑近な事例に当てはめるならば、例えば、経産省が競争入札を実施した際、応札している特定の企業に入札監理委がバージョンアップや値下げを要求し、入札に便宜を図るのと同じようなこと。事実であれば、選定の公平性、正当性を根底から覆すような事例だ、というのである。

 こうした過程を経て出来た提案書を受け、翌7月、防衛省は「LMSSR」の採用を決めた。

「その選考会の過程は公開されていますが、SPY-6に対し、LMSSRが『基本性能』『後方支援』『経費』の、『納期』を除く全項目において高い評価を得たのです。一方的とも言える結果が出ている。背景にMDAが一方を後押しするような、歪んだ過程があったと窺わせる文書なのです」(同)

「Buy American」

 これを裏打ちするように、MDAには、ロッキード社の後押しをするのが必然の“関係”もあるのだという。

 防衛事情に詳しい、さるジャーナリストが解説する。

「『LMSSR』は、もともとMDAがアラスカに配備する『LRDR』という巨大な警戒管制用レーダーと同様の技術が使用されることになっています。つまり、LMSSR自体が、MDAに“紐付く”事業。しかし一方で、米海軍は自らのシステムにライバルのSPY-6を選んでしまった。これに焦ったMDAが日本にこれを是非導入すべし、と考えても不思議はありません」

 そもそも、イージス・アショアの配備自体、北朝鮮の脅威に備えるという理由とは別に、アメリカの強い要請に答えたという側面も大きい。

「全世界でのミサイル防衛網配備がアメリカの戦略。何よりトランプ大統領は貿易赤字を減らしたかった。安倍首相と会談する度に、“Buy American”と要求したのは有名な話で、事実上、それに応じて、イージス・アショアの配備が決まった」(同)

 こうしてMDAとトランプに押し切られて買ったLMSSRだったが、さまざまな難点が生じて、計画自体が頓挫してしまった。

「しかし、彼らとの約束を守るためには、『代替案』でも引き続き同じレーダーを使用せざるを得ない。これが本音でしょう」(同)

 それに加えて、防衛省側には、責任を負いたくないという“理由”もあるだろう。システム全体で総額約4500億円と見積もられた導入経費のうち1787億円が契約済みで、そのうち196億円は既に支払っている。ここで契約そのものを見直せば、これが無駄金になるばかりか、違約金まで取られかねない。そうなれば、誰かが責任を取らざるを得なくなるのは必至である。

 さりとて、「代替案」をこのままLMSSR(SPY-7)で進めれば、更なる難点も生まれる。

「イージス艦にこれを搭載した場合、共同歩調を取る米海軍のレーダーはSPY-6と決まっていますから、連携がうまくいくか疑問が出てくる。また、LMSSR(SPY-7)は、まだ運用されたことのないレーダーなので、イージス・システムとの連接試験が新たに必要になる。これは日本の負担となり、600億円かかると言われています」(同)

 いずれにせよ、酷い話なのだ。

 これらの経緯を、ロッキード社の日本法人に尋ねてみたが、回答はなし。

 他方の防衛省からも締め切りまでに回答は来なかった。

「私も、選考方法には疑問を感じていました」

 と語るのは、元海上自衛隊自衛艦隊司令官の香田洋二氏。

「例えば、選定作業の詳細を見ると、防衛省になされた二つの提案のうち、SPY-6については、MDAの提案となっているのに対し、LMSSRについては、MDAとロッキードの提案となっているんです」

 SPY-6は既に米海軍に採用されているため、米政府が管理するシステムとなっている。他方の「LMSSR」はそれとは異なるため、企業も提案者に含むことができるという“事情”があるからだが、

「裁判で例えるなら、前者は当事者抜きの言わば『代理人』のみで戦っているのに対し、後者は『代理人』と『当事者』両方が出廷しているようなもの。企業そのものがさまざまにアピールや工作できるのです。選定段階で差があり、ボタンの掛け違いが起こっている。イージス・アショアを巡る一連の動きは、最初から偏って見えました」

 元陸上自衛官の佐藤正久・参議院議員も言うのだ。

「イージス・アショアは頓挫し、その間にも、ミサイルを巡る、世界の安全保障事情は激変している。だからこそ今は、すべてを白紙に戻し、日本のミサイル防衛について新たな環境に照らした上で、もう一度初めから議論をし直さなければならないはずです。しかし、防衛省の姿勢はどうも拙速で、イージス・アショアの代替案、そして当初の契約ありきで前のめりになっている。これでは、再び失敗を繰り返すことになるのではないでしょうか」

 本来は、日本を守る「盾」として構想されたイージス・アショア。それが迷走の果てに、逆に日本を危機へと陥れかねないのだとしたら、とんだ皮肉である。

週刊新潮 2020年11月19日号掲載

特集「『イージス・アショア』を特捜検察が内偵!  疑惑の『ロッキード』内部文書」より

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