太宰府・主婦暴行死事件、11回相談も県警は放置 桶川事件の教訓は活かされず 

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 九州ではしばしば、佐賀県警を“さばけんけい”と呼ぶという。事件がうまくさばけないことを揶揄しているのだ。いま、福岡地裁で裁判進行中の「太宰府市主婦暴行死事件」でも……。

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 昨年10月20日、福岡県太宰府市の駐車場で主婦の高畑(こうはた)瑠美さん(当時36)の遺体が車から見つかった事件。事件前、佐賀県警は、瑠美さんの身の危険を案じた家族による相談を放置していたのだ。

 遺体を車で運んだとして、同乗していた男女3人を死体遺棄の疑いで逮捕したのは福岡県警。うち、瑠美さんと同居していた無職の女性、山本美幸被告(41)と無職・岸颯(つばさ)被告(25)の2人が起訴された。山本の知人で元暴力団員の田中政樹被告(47)も、遺体の遺棄を指示したとして同罪で起訴。現在、3人とも公判中である。地元記者は言う。

「瑠美さんの身体には多くの暴行痕が残っていました。山本たちは日常的に、尻を木刀で殴ったり、バタフライナイフで太腿を刺したりと、彼女に暴行を加えていた。抵抗できない心理状態に追い込み、親族や知人に“借金を返すため”として金を無心させていたのです」

 この陰惨な事件の根底には、瑠美さんの兄と山本との間の金銭トラブルがある。

「彼女の兄は、山本の中学の2学年下の後輩。10年ほど前、兄が働いていた居酒屋で偶然会い、たびたび飲みに行くようになりました。その場で山本は自分の奢(おご)りと思わせ、あとから兄に数十万円単位の無茶な金額を取り立てていた。借用書なども書かせたうえで山本の知り合いの工場などで働かせ、給料のほとんどを取り上げた。一方で、妹の瑠美さんやその夫も“兄の借金を払え”と恐喝。これが瑠美さんとの接点となった」

 その後、瑠美さんは山本らに連れ去られ、同居。彼女も兄も山本という猛女の洗脳で恐怖支配の下に置かれていたという。

「瑠美さんの夫ら家族は、高畑さんの実家近くの佐賀県警鳥栖署に11回も相談していた。それが福岡県警の調べで分かりました。ご家族は田中から金を支払うよう脅された内容を録音し、鳥栖署に持ち込みましたが、鳥栖署は動きませんでした。そして昨年9月、最後の相談のひと月後に命を落としたのです。しかし当時の対応を内部調査した佐賀県警は“金銭トラブルで、命の危険まではなかった”“対応に問題はない”という判断で済ませてしまった」

 警察が動かなかったという点では、1999年、埼玉県桶川市で、大学生の猪野詩織さんがストーカー被害の末に殺害された「桶川ストーカー殺人事件」が思い起こされる。

「ふざけるな」

「私もこの事件については関心を持っています」

 と、猪野詩織さんの父、憲一さんが言う。

「ストーカーによる事件ではありませんが、家族が警察に何度も助けを求めているのに、警察の対応が酷くて、話をきちんと聞かないという点では私たちの家族に起きた事件と同じだと思います。私たちの場合は、犯人の恫喝を録音したテープを警察に持って行ったのに警察は動いてくれず、そのテープもどこかに行ってしまい、事件後に戻ってきました。今回の事件でも、脅迫の証拠になり得る録音音声があったのに、警察は自分たちでそれを確認しようとせず、家族に文字起こしして出せとまで言ったわけですよね。(桶川事件から)20年が経ったというのに、警察はまだこんなことをしているのかと思います」

“助けて欲しい”と声を上げる一般市民を警察が無視したのは紛れもない事実で、

「私自身、非常に憤りを感じます。なぜ、こうしたことが繰り返されてしまうのか。警察学校に入った時は“一般の市民のために頑張ろう”という志を持っていたはずなのに、なぜその志を失ってしまうのでしょうか。今回の事件で、記者から“遺族に謝罪したか”と質問された佐賀県警上層部は、“お悔やみは申し上げてますけど”としか言わず、自分たちの立場を守りたい気持ちが透けて見えました。正直、ふざけるなという感じです。“助けて欲しい”と言っている時に、どうして助けられないのか。非常に腹立たしいです。市民を守るために仕事をしているのではないのかと」

“桶川”の教訓を全く活かせなかった佐賀県警。“さばけんけい”の評価は本当だった。

週刊新潮 2020年11月19日号掲載

ワイド特集「遅れてきた請求書」より

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