日本シリーズ開幕で思い出すV9「川上哲治監督」の言葉【柴田勲のセブンアイズ】

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 さあ、21日からは巨人とソフトバンクの日本シリーズである。その行方だが、私は4勝2敗でソフトバンクだと予想する。

 ソフトバンクは昨年、下克上からのシリーズ進出だったが、今年はペナントレースをぶっちぎっての優勝で、ロッテとのCSでもその強さを存分に発揮した。昨年よりもチーム力は格段に上がっている。しかも実戦を踏んで勢いに乗って臨む。

 対する巨人だが、チーム状態が一番悪い時に優勝した。前回の今コラムでもどれだけ立て直してシリーズに臨めるかがカギだと記したが、さてどうなるのか。

 それに今年は本拠地の東京ドームが使えず京セラドームで1、2、6、7戦を戦う。ソフトバンクはオリックス戦で普段から同ドームで戦っており有利だろう。

 しかも今年は全試合でDH制が採用されるが、これもソフトバンクには有利だろう。普段着の野球ができる。DHが専門のアルフレド・デスパイネを外野で起用せずに済む。守備には危なっかしい面がある。

 巨人がシリーズを制するためにはなんといっても、エース・菅野智之で2勝することが絶対条件だ。第1戦と第5戦を取る。特に第1戦で千賀滉大との投げ合いを制しての勝利は必須だ。

 仮に菅野が序盤で大量失点して途中降板とでもなれば、昨年の再現(4連敗)もあり得るとみる。それだけ第1戦は大切だ。

 幸い、調整の舞台となった14日のDeNA戦(横浜)では疲れがすっかり取れたのか、菅野らしい躍動感のある投球フォームで力のあるボールを放っていた。

 ソフトバンクの投手陣と比べると、やはり菅野以外は落ちる。第2戦以降の先発は巨人がシーズン終盤に良かった今村信貴、エンジェル・サンチェス、畠世周か戸郷翔征、ソフトバンクは石川柊太、マット・ムーア、和田毅かリック・バンデンハークになるか。東浜巨が登録メンバーから外れたもののそれほど影響はない。

 リリーフ陣は巨人が復帰した中川皓太をはじめシーズンを支えた顔ぶれは強力だが、ソフトバンクも岩嵜翔、リバン・モイネロらが控えておりこちらも手ごわい。

 打線はほぼ互角とみたいが、ソフトバンクは柳田悠岐が好調で徹底マークを外せない。それに1番に定着した周東佑京の足対策がひとつのポイントとなる。

 期待するのは岡本和真と丸佳浩の2人だ。岡本は本塁打と打点の2冠を獲得した自信があるだろうし、丸は雪辱を期しているはずだ。昨年のシリーズでは13打数1安打、打率・077と完全に抑え込まれた。広島時代の一昨年も不振だった。ソフトバンク投手陣の徹底した内角攻めに遭って打撃を狂わされていた。ぜひ、乗り越えてもらいたい。

 坂本勇人も昨年は4試合で1安打だった。今年は苦い経験を生かし、いつも通りの働きをしてくれるはずだ。

 だが、巨人がシリーズを制するためにはラッキーボーイの出現が必要だ。それも1人ではなく、2人ほしい。

 短期決戦では思わぬ選手が大活躍するケースがよくある。それが吉川尚輝、大城卓三、そして松原聖弥になるのか。もちろん、経験値の高いベテランである亀井善行、中島宏之にも注目したいし、DH制の採用で増田大輝、重信慎之介、さらには若林晃弘、田中俊太らを起用できる。足がある彼ら、それ以外から複数のラッキーボーイが出てほしい。

 日本シリーズとなるとスコアラー陣などから膨大な量のデータが届く。特に投手陣は捕手との打ち合わせもあって大変だ。「ここが強い」、「あそこが弱い」とか。

 川上(哲治)さんはシリーズ前になると、「情報は頭に入れておけ。そして試合になったら白紙の状態にしろ」という話をされた。

 データに振り回されるなということだ。私もシリーズを何度も経験したが、最後は自分の打てる球をしっかりと捉える、これだった。守備に関しては相手打者の傾向を頭に入れていたが、対戦するのは普段対戦していない投手たちである。投手も打者も基本は一緒である。普段の力を発揮することだ。

 ソフトバンクは横綱である。がっぷり四つに組んではダメだ。あの手、この手でぶつかっていくしかない。

 原辰徳監督の手腕に期待するところ大だ。私の予想を覆してもらいたい。

柴田勲(しばた・いさお)
1944年2月8日生まれ。神奈川県・横浜市出身。法政二高時代はエースで5番。60年夏、61年センバツで甲子園連覇を達成し、62年に巨人に投手で入団。外野手転向後は甘いマスクと赤い手袋をトレードマークに俊足堅守の日本人初スイッチヒッターとして巨人のV9を支えた。主に1番を任され、盗塁王6回、通算579盗塁はNPB歴代3位でセ・リーグ記録。80年の巨人在籍中に2000本安打を達成した。入団当初の背番号は「12」だったが、70年から「7」に変更、王貞治の「1」、長嶋茂雄の「3」とともに野球ファン憧れの番号となった。現在、日本プロ野球名球会副理事長を務める。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月21日掲載

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