「巨人」は“追い風が吹かないドーム”で苦戦?…よぎる日本シリーズ惨敗の悪夢

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 パ・リーグのクライマックスシリーズは、リーグ優勝を果たしたソフトバンクが2連勝で突破して、日本シリーズは「ソフトバンク対巨人」という二年続けて同じカードとなった。昨年は、まさかの4連敗を喫した巨人にとっては雪辱を果たす舞台となるが、前評判ではやはりソフトバンクが圧倒的に有利という声が聞こえてくる。

 まず、巨人にとって不利な要因の一つが開催される球場だ。東京オリンピック・パラリンピックの影響で、社会人の都市対抗野球が先に東京ドームのスケジュールを抑えており、巨人のホームゲームは、オリックスの本拠地、京セラドーム大阪で行われることとなった。

 今年、巨人は京セラドーム大阪での試合はなかったが、昨年は1勝1敗、そして一昨年は1勝4敗と大きく負け越している。先攻か後攻かという違いはあるものの、戦い慣れた球場で試合ができないというのは非常に大きなマイナスである。

 むしろ、オリックス戦で普段から京セラドーム大阪で試合をしているソフトバンクに有利に働くことも考えられる。実際、ソフトバンクは、今季の京セラドーム大阪で9勝1敗1分と勝率8割を超える好成績を残している。こうした状況を考えると、巨人にとって“ホームゲーム”としてのアドバンテージは無いに等しく、戦い慣れた東京ドームと異なり、いろんな意味で「追い風が吹かないドーム」での戦いは苦戦を強いられそうだ。

 もうひとつはやはり日程の問題だ。今年は新型コロナウイルスの影響でレギュラーシーズンの期間が短くなり、セ・リーグのクライマックスシリーズは中止となっている。巨人は幸い11月14日まで公式戦を戦っていたものの、優勝が決まってからは消化試合の意味合いが強く、さらに中途半端に1週間の空白期間があったことがプラスに働くとは考えづらい。2試合とはいえ、直前にクライマックスシリーズでロッテと真剣勝負を繰り広げていたソフトバンクと比べると、“勝負勘”がどうしても鈍っている可能性が高そうだ。

 仮に、球場や日程の問題がなかったとしても、やはり巨人に有利となる要素はなかなか見えてこない。そんな中でも唯一にして最大のプラス要因は、エースの菅野智之の存在と言えるだろう。昨年はシーズン終盤に腰痛で戦線を離脱して、クライマックスシリーズでの登板を回避し、故障明けの状態でシリーズを迎えている。そして0勝3敗で迎えた第4戦に先発したものの、7回途中まで投げて4失点で負け投手となり、チームも4連敗で敗退となった。今年の菅野はシーズンを通じて安定した投球を見せており、エースとしての働きは期待できる。

 しかし、菅野以外の戦力の部分では、昨年のシリーズと比べてもマイナスが多い。まず菅野以外で先発した投手は山口俊、メルセデス、高橋優貴の三人だったが、山口はメジャーに移籍し、残る二人も先発できるような状態ではない。今年ブレイクした戸郷翔征、新外国人のサンチェス、シーズン終盤に好投を見せた畠世周などが候補になってくるが、いずれも短期決戦の実績には乏しく、投げてみないと分からないというのが本音だろう。

 ソフトバンクもクライマックスシリーズ第2戦で先発した東浜巨が右肩の不調を訴えてシリーズでの登板は微妙な状況だが、エースの千賀滉大以外にも実績十分の和田毅、今年抜群の安定感を見せている石川柊太が控えているのは非常に心強い。

 さらに戦力差を感じるのはブルペン陣だ。巨人の救援防御率は3.60でセ・リーグ3位の数字だが、一方のソフトバンクは2.60という12球団でも圧倒的な成績を残している。セットアッパーのモイネロ、クローザーの森唯斗という絶対的な存在二人に加えて多様なリリーフ投手を揃えており、短期決戦で圧倒的な強さを発揮する大きな要因となっていると言えるだろう。

 野手に関しても、巨人は昨年と比べて成績を伸ばした主力は岡本和真だけ。吉川尚輝、松原聖弥などの台頭はあるものの、大きく上積みされているようには感じられない。ソフトバンクは内川聖一が戦力とならなかったが、昨年故障に苦しんだ柳田悠岐が完全復活を果たしており、栗原陵矢、周東佑京が大きな成長を見せている。中村晃、グラシアルといった実績のある選手もここへ来て調子を上げており、層の厚さはさすがという他ない。

 このように見ていくと、あらゆる面から巨人にとって不利なシリーズとなる可能性は極めて高いと言える。菅野を立てた初戦で敗れると、昨年のように一気に4連敗という悪夢が再び起こることは十分に考えられる。“球界の盟主”としての威厳を保つことができるのか。すべてはエース菅野の右腕にかかっていると言えそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月21日掲載

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