早大元教授パワハラ問題 大学側の問題点は? ハラスメント相談1000件超の弁護士が解説
17日、友添秀則JOC常務理事が辞任したことが一斉に報じられた。背景にあるのは、早稲田大学スポーツ科学学術院教授だった今年6月に大学の調査委員会が提出した報告書によってパワハラ行為が認定されたことにあるのでは、という見方がもっぱらである。
このパワハラについて最初に詳しく報じたのは朝日新聞(11月7日付朝刊)である。調査委員会の報告書によると、学術院の教員2人に対して以下のような行為があったと伝えている。
・地位に不安を抱かせたり、他大学での非常勤講師の職を辞するように強いる発言
・深夜のメール返信の強要
・昼食購入といった身の回りの世話の要求
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クラスの番長が気の弱い生徒に「おい、いつもの焼きそばパン買ってこい」というようなレベルのものまで含まれている。こうした行為が事実であれば(友添氏はハラスメントを否定しているという)、最近の基準を考えればパワハラとされても仕方あるまい。
が、一方で友添氏は早大から処分を受けているわけではなく、自主退職の形を取っている。
この一件を、法律の専門家はどう見るか。過去、1000件以上のハラスメント相談を受け、最近著書『パワハラ問題―アウトの基準から対策まで―』を上梓した弁護士の井口博さんに見解を聞いてみた。
「あくまでも朝日新聞等の報道が正しければ、という前提でお話をします。
元教授は、2020年6月に調査委員会によってパワハラ行為についての報告書が学術院長に提出されたあと、10月に自主退職しています。取材に対して退職理由を『いろいろなことに疲れたから』と答えているようですが、時期からして、パワハラによる大学からの懲戒処分を受けることを避けるためと思われても仕方ないでしょう。
ハラスメントの加害者が懲戒処分を逃れるため自主退職するケースは少なくありません。
これは民法の規定により、期限の定めのない雇用契約では、被用者からの退職届が出されてから2週間が経過すれば退職の効力が生じるので(民法627条1項)、ハラスメントが認定されて重い懲戒処分を受けそうだと思った加害者は、すぐに退職届を出して懲戒処分を逃れることができるからです。
報道された内容であれば、通常なら、軽重はともかく何らかの懲戒処分がなされる可能性は高いでしょう。
ただこの点での大学の対応は不可解に思いました。
なぜならこのケースでは調査報告書が出された6月から教授が退職したという10月まで4カ月もあったわけです。ということは、大学がその気になれば調査報告を受けてすぐに懲戒審査をして、懲戒処分を出すだけの十分な期間はあったはずです。
少なくとも一般の企業であればすぐに懲戒処分の手続をするでしょう。
大学は教授が大学の理事であり、JOCの常務理事であることを考慮した、といった事情があったのかどうかはわかりませんが、通常は、このような長い期間、懲戒審査をしないことは考えられません。
ハラスメントをした教員が自主退職したために懲戒処分ができなくても、退職金の減額査定のため事実調査を行うことはあります」
この件で、早大とJOCは公式にはパワハラについて認めるコメントを発表していない。すべては学内で事が収まっているのだ。
井口弁護士は大学という組織の特殊性をこう指摘する。
「多くの大学は講座制をとっているため、その講座の教授は講座の人事等に大きな権限を持ちます。
問題は大学において、講座に閉鎖性、密室性があるだけでなく、講座同士で不干渉主義がとられ、他の講座はおろか大学のトップでも講座のことに口出ししにくい構造になっていることです。
これは企業と大きく異なる点です。講座の教授はまさに一国一城の大名になっているのです。
この構造は、かつてほどではないにしても、理系、特に医学部では顕著にみられますが、このケースのように文系講座でも少なくありません。
パワハラが本当にあったのであれば、大学当局は事実をしっかりと受け止め、同教授が退職したから終わりとういうことではなく、なぜこのようなパワハラが起きたのかについてしっかりと検証したうえで再発防止を図る必要があります。
その際の再発防止策として必要なことは、おざなりの検証ではなく、事案の学内への報告と説明、さらに全学でのパワハラ実態調査でしょう。
大学の説明責任と再発防止のための適切な対応責任が、対社会との関係でも問われていることは間違いありません」
早稲田大学は、学生に身につけてほしい能力として、以下のものを挙げているが……。
「問題発見・解決力:新たな問題を言語化またはモデル化し、解を提案、論理的に説明する力」
「健全な批判精神:社会および自然界の事象を多面的に捉え、既存の問題設定や解を健全に批判し、建設的な提案を行う姿勢」(同大HPより)