「湘南爆走族」から33年、相変わらずの「織田裕二」、「江口洋介」俳優人生の分岐点
転機はあった
江口は、これ以前にも何作か出演作があるが、インタビュー記事のプロフィールには“「湘南爆走族」でデビュー”と紹介されることが多かった。本人もこれが実質的なデビュー作という意識が強いのだろう。
一騎当千、少数精鋭の走り屋“湘爆”のリーダーを務めるのが、紫のリーゼントがトレードマークの江口洋助。配役が発表された当時、偶然とはいえ役名と役者名の読みが同じことも話題となった。
織田はといえば、この作品まで役者の経験はなかった。“湘爆”のNo.2で、血の気の多い親衛隊長・石川晃をオーディションで勝ち取った。映画関係者は言う。
「この時の主役は江口で、織田は準主役でした。ただ見た目は、織田のほうが原作に似ているという声が多かったですね。もっとも、一番似ていたのは“湘爆”のライバルチーム“地獄の軍団”リーダーを演じた横浜銀蠅の翔(62)でしたけど」
当時、“ツッパリ三連打”と銘打たれ、ひと月毎に、「スケバン刑事」(田中秀夫監督、主演/南野陽子[53])、「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎行進曲」(那須博之監督、主演/仲村トオル[55]、清水宏次朗[55])が公開されたが、トリの「湘爆」だけが不入りのために打ち切られた。
それでも2人はその後、着々と芸能界での地位を高めていった。
江口は翌88年、「翼をください」(NHK)でドラマ初主演し、織田は89年の映画「彼女が水着にきがえたら」(馬場康夫監督)で主演の原田知世(52)の相手役を務め、知名度を上げた。
そして再び、前述の「東京ラブストーリー」で顔を合わせる。前出の芸能記者が語る。
「主演した織田は一気にブレイクし、この辺りから主演作ばかりを演じるようになりました。一方、江口は長髪をトレードマークに『101回目のプロポーズ』(91年/フジ)や『愛という名のもとに』(92年/フジ)などトレンディドラマの常連となり、93年の『ひとつ屋根の下』(フジ)に主演して大ヒット。江口も主演俳優として歩み始めました。ブレイクの時期が多少違うとはいえ、経歴もよく似ています」
ところが、決定的な違いが生まれる。97年、織田主演のドラマ「踊る大捜査線」(フジ)がスタート。ドラマは成功し、映画も制作される。98年の「踊る大捜査線 THE MOVIE」は興収101億円、第2弾「踊る大捜査線 THE MOVIE レインボーブリッジを封鎖せよ!」は173億5000万円を上げ、いまだ実写邦画歴代1位を守る金字塔となった。
「江口も主演ドラマ『救命病棟24時』(フジ)がシリーズ化するなど活躍しますが、邦画歴代1位の重みには及びません。ですが彼にも転機が訪れます。森高千里(51)との結婚です」
99年6月、江口は歌手の森高と結婚。
「森高は当初、スタイルの良さと美貌で男性ファンからの人気が圧倒的でしたが、実はソングライターとして女性ファンの人気も高い。そんな彼女が選んだ男ということで、江口の女性人気も高まった。芸能人は結婚して人気を落とす例もありますが、唐沢寿明(57)と山口智子(56)、小栗旬(37)と山田優(36)のように、夫婦として人気が出る場合もあるんです」
江口は夫婦でCMに出演したが、
「織田の結婚は2010年と遅かったが、私生活は全くと言っていいほど出しません。奥さんが美容研究家のためか、肌のケアもできているようですし、スーツ姿も若い。イメージを守りたいこともあるのでしょう。今でも“熱い男”のまんまです」
織田は面倒な俳優だとはよく聞く話だが、
「有名なのは、主演ドラマ『振り返れば奴がいる』(93年/フジ)ですね。最終回のラストシーンの撮影中に、“ラストは死にたい”と言い出し、現場は混乱。脚本家に連絡を取り、彼の希望通りに書き直してもらったのは有名な話」
脚本家とは三谷幸喜で、自身が持つ新聞連載でその顛末を書いた。
〈脚本家としてまだ駆け出しだった頃、こんなことがあった。あるドラマの最終回、ラストシーンの撮影現場から連絡が入った。主演俳優が死にたがっているので、急遽(きゅうきょ)ホンを変えたい、とプロデューサー。(中略)その俳優さんが全身全霊を込めて役に入り込んでいることも分かっていた。/そこで、死ぬのは構わないので、どういう形で最期を迎えるかは、僕に考えさせて欲しいとお願いした。現場では既に撮影準備が整い、主演俳優は死ぬ気満々でいるらしい……〉(16年10月27日付「朝日新聞」)
作品に打ち込むのは結構なことだが……、
「こだわりが強いんでしょうね。彼のモノマネをしたお笑い芸人の山本高広(45)が、事務所から抗議を受けて封印されたことは有名ですし、カッコ良く見せたいし、カッコ悪くなることが嫌いなんでしょう。ですから、脇に回ることもない。そして江口も、かつては主役ばかりでした。結局、特に下積みもなく、トレンディドラマで人気が出た“アイドル俳優”みたいなまま来てしまった。年を重ねたように思えません。考えてみれば2人とも、唐沢寿明のようにアクションができるわけでもないし、何が特徴かと聞かれたら答えにくい。どこかで止まっている感じなんです」
だが江口は近年、ドラマや映画で脇役をこなすようになってきた。「七人の秘書」はもちろん、「コンフィデンスマンJP」(18年/フジ)では悪役、しかも最終的にだまされるカッコ悪い役だ。
「転機は12年の映画『はやぶさ 遥かなる帰還』(瀧本智行監督)ではないかという声があります。主演は渡辺謙(61)でした。この映画の企画が東映の坂上順さん。『鉄道員(ぽっぽや)』や『野生の証明』、『新幹線大爆破』など高倉健さん(1931~2014)の作品に多く関わった名プロデューサーですが、『はやぶさ』では、江口を脇で使おうとして苦労したと語っていました」
〈「相当しつこく粘りました。主役やる人だからね。どうやっても謙さんのもの(映画)になるだろうって思いがあるだろうし」。最後には江口のデビュー作「湘南爆走族」(87年)をプロデュースしたことを持ち出し、「面倒みただろ。おじいちゃんを助けてくれよ」と泣き落とした〉(12年2月7日付「サンケイスポーツ」)
「実を言うと、坂上さんは『湘爆』のプロデューサーでもあったわけです。デビュー作から知っている人に頼まれては拒めなかったでしょうね。この頃から江口は、脇にも出るようになっています」
坂上氏は織田を使おうとは思わなかったのだろうか。
「織田とも仕事をしたことがあります。03年に日中韓の合作映画『T.R.Y.』(大森一樹監督)で、製作費11億円という大作の主演が彼でした。結局、現場では誰が監督か分からない状態となってしまい、大森監督は引退を考えたとまで言われる曰く付きの作品となってしまいました」
坂上氏は昨年亡くなったので、その後、織田と組もうとしたかは確認のしようもない。
「江口は脇に回れたことで、良かったと思います。悪役もできるようになったことで、役者としてずいぶん幅が拡がりました。CMではピシッとスーツを着て、格好いいところも見せていますしね。生活感があるので、CMの仕事は安泰だと思います。一方、織田はいつまで今のままでいくつもりなのか、むしろ興味深いですね。保険のCMでも、なんだかずっと“青島君”を演じ続けているようです。ひょっとすると、昔と全く変わらない田村正和(77)を狙っているのかもしれませんが」
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