「コロナ×インフル」の予防にヨーグルト? “腸活”の驚くべき効果とは
コロナ禍で「コロナうつ」という言葉が生まれたが、この時期は、気持ちの落ち込む人がより増えているかもしれない。“幸せホルモン”といわれるセロトニンは、日光に当たると分泌されやすくなるため、日照時間が減る秋から冬にかけてはうつっぽくなりやすいのだ。セロトニンは脳内でつくられる神経伝達物質として知られるが、実は腸でもつくられている。
近年、腸はほかの臓器とは全く異なることがわかってきた。その機能から「第二の脳」とも呼ばれていることをご存知だろうか。
「私たちの体のあらゆる器官は、基本的に脳や脊髄といった中枢神経からの指令で動いています。腸も自律神経の影響を受けていて脳にコントロールされていますが、腸にはそれ以外に『腸神経系』という独自の神経ネットワークがあるのです。つまり腸は、脳からの指令がなくても、自分の判断で動くことができるのです」
と話すのは、新宿大腸クリニックの後藤利夫医師だ。そして、
「腸には私たちの体を守ってくれる免疫機能が集中しているため、腸が不健康だと免疫力が下がり、感染症をはじめさまざまな病気にかかりやすくなります」
というのである。
その腸をコントロールしているのは、そこに棲む微生物、すなわち数百から千種類、数にしておよそ40兆個にものぼる腸内細菌だ。彼らは腸の中にびっしりと、まるで草原に多数の花が咲くように存在していることから腸内フローラ(フローラはお花畑の意)と呼ばれ、これが健康に影響を及ぼす。
東京医科歯科大学臨床教授で秋葉原駅クリニックの大和田潔医師は「うつ病」を例にこう説明する。
「ベルギーで千人以上を対象に行われた研究では、一部の腸内細菌とうつ病の間に関連性があったと報告されています。別の研究でも、うつ病患者の特定の腸内細菌の減少や、腸内フローラのアンバランスが指摘されています。またうつ病の人はそうでない人と比べて過敏性腸症候群(大腸に病気がないのに腹痛や便秘、下痢を繰り返す疾患)の発症率が3倍といわれます」
過敏性腸症候群患者の腸内環境は「大腸菌が増加し、ビフィズス菌や乳酸桿菌が減少していた」という報告がある。近年、特定の腸内細菌の増減と脳との関連がわかりつつあるのだ。
独自技術を駆使して腸内環境の解析・評価をし、数々の論文を世界的科学誌に発表してきた慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授の福田真嗣氏(株式会社メタジェン代表)によれば、
「人工的環境下で飼育した腸内細菌を持たない無菌マウスは、普通のマウスより落ち着きがなかったり、ストレスに弱かったりします。無菌マウスの脳の中を調べると、記憶を司る海馬や、感情の中枢である扁桃体での神経細胞の増殖を促すホルモンの量が少ない。このマウスに腸内フローラを移植すると、普通のマウスの行動パターンに近づくこともわかりました。またマウスの腸内環境を改善することで、脳でストレスを感知するレセプター(受容体)が減り、ストレスを感じにくくなることも報告されています」
脳で緊張やストレスを感じると、おなかが痛くなったり下痢を起こすことがある。反対に腸のコンディションが悪いと脳にも影響を与えるのだ。これを「脳腸相関」という。
体型に影響を与える菌も
脳だけではない。腸に棲む腸内細菌は糖尿病など全身疾患にも影響を与える。
「食物繊維が腸内細菌を通じて、2型糖尿病に効くと報告されています。腸内細菌は人が食べたものを分解したりしてさまざまな産生物(代謝物質)を産み出します。食物繊維を取ると短鎖脂肪酸が産生され、これが糖尿病を改善させる作用があるようです」(大和田医師)
また“やせ菌”と呼ばれる腸内細菌も見つかっており、腸内環境の状態が肥満ややせ体質に関わっていることも判明している。
それではどういった腸内環境なら健康でいられるのか気になるが、残念なことに、誰もが世界にたった一つの腸内フローラを持つため“手本”はないという。
「人は母親の胎内にいる時は無菌の状態です。そして産道を通って生まれてくる時にはじめて細菌と出会います。生まれてからは口に入ってくるものによってどんどん細菌を体内に取り込みます。母親も、育つ環境も一人一人違いますから、腸内フローラも同じ人はいないのです。親子、兄弟間でも異なります」
と、後藤医師。そこに棲む腸内細菌の働きもさまざまで、
「糖分や食物繊維を食べて発酵させ、腸内を弱酸性にして体に有害物質を作らせない腸内細菌もいれば、タンパク質や脂肪を食べて腐敗させ、発がん物質や毒性物質を作る腸内細菌もいます」(同)
腸内の菌たちの居住スペースには限りがあるため、腸内に棲みつく腸内細菌たちはそれぞれの領地を広げようと常に小競り合いを続けている。そのため腸内環境は日々変化する。現在の状態を知るには、便を見ることだという。
「便の大部分はまず水分。この割合は人それぞれで、その時の体調によっても違います。便秘よりも下痢のほうが当然水分量は多くなります。水分以外、いわゆる“実”の半分は腸内細菌で、残りが食物繊維をはじめとする消化されなかった食べ物です」(福田氏)
体に良い働きをする菌が活発に働くような腸内環境であれば、「黄褐色でバナナ状」の便が出るとのこと。
ここで確認しておきたいのは、腸内細菌は宿主(人)が食べたものの“残骸”を餌として生きているということだ。日本人の腸内には、海苔やワカメなど海藻類に含まれる糖類を分解することができる腸内細菌が高い頻度で見つかっているが、これは日本古来の食文化と関係している可能性が高いだろう。逆に欧米人はこの海藻類を消化しにくい。ほかにも例えば、肉ばかり食べている人はそれをエネルギー源にする腸内細菌ばかりが増え、その菌が生み出す“毒素”で腸内環境を悪化させてしまうこともある。
腸内細菌のバランスが大切なのだが、腸内で体に良い働きをする菌は加齢とともに減りやすい。
「ですから年齢を重ねるほど食品などから良い菌を摂取しましょう」
と、後藤医師は言う。具体的にはヨーグルトやチーズなどの乳製品、味噌やしょうゆ、ぬか漬けなどの発酵食品に豊富に含まれる乳酸菌を取ることが必要だ。
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