コロナ社会を生き抜くための「アンガーマネジメント」とは ツボ押し、手首の輪ゴムも効果的

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気性を変える「原因療法」

 さらに、「心のスイッチ」という言葉にふさわしいのが「手のツボ」だ。

 都内の病院で働く看護師の言葉に耳を傾けてみる。

「イライラすることがあったら親指のつけ根のツボを、もう片方の親指と人差し指でマッサージすると落ち着くと先輩に教えてもらって今もやっています。肩こりにもいい」

 このツボは「合谷(ごうこく)」という。その効果についてツボに精通する予防医療家の加藤雅俊氏はこう説明する。

「頭痛など胸から上の痛みに特に効果があるツボで、ここを押すとβエンドルフィンというホルモンが分泌されたとの研究もあります。これはモルヒネの約6倍の強さがあり、痛みだけではなく、怒りも抑えてくれるのです」

 この合谷は健康法などでも多く紹介される有名なツボなのだが、加藤氏によれば、間違ったところを押している人もかなり多いという。

「親指と人差し指の間の筋肉を押している人がいますが、これでは効果はありません。ツボは神経の交差点のようなもので、守られるように骨の裏側にあります。正しい合谷の押し方は、親指と人差し指が接している二股部分から5ミリほど人差し指側に戻ったところで、手の甲側から骨の裏側に向かって親指を入れるとツーンとするところが合谷のツボ。そこを5秒くらい押すということを3回ほど繰り返すのがお勧めです」(加藤氏)

 このように世の中にはさまざまな「怒り制御法」があるわけだが、その中でも最も効果が高いのは、そもそも論として「怒りっぽい気性を変える」ことであるのに異論はないのではないか。

 ここまで紹介した方法は、カッとなって頭に血が上ったものをクールダウンさせる「対症療法」である。それよりも、なぜカッとなりやすいのかという原因を突き止めて改善を図る「原因療法」の方が望ましいのは言うまでもない。「怒らないテクニック」を身につけるよりも「怒りにくい性格」を身につけた方が、怒りに支配されて自滅するようなトラブルに巻き込まれる危険性は格段に低くなるのだ。

 そのような「原因療法」で言えば、アンガーマネジメントの世界では「アンガーログ」という方法がある。自分が一日の中で怒ったこと、イライラしたことを、その場でノートなどに記録していくのだ。

「書く内容はあまり詳細なものではなく、日時、起きた出来事、さらにどれくらいの怒りだったかをさっとメモしておく程度で十分です。これによって自分の怒りが“見える化”されるので、1週間分くらいを振り返ると、自分の怒りの傾向が見えてくる。例えば、人との待ち合わせや渋滞などでイライラしていることがわかれば、なるべくそのような状況を避けるという対策や、時間に対する意識を少し変えてみるという解決策も見えてくるのです」(安藤氏)

「怒り」自体は人間にとって自然な感情であり、むしろこれを無理に抑えつけるのは精神衛生上よくない、と安藤氏は言う。ギスギスした浮き世を生き抜くには、人に迷惑をかけず、我が身も滅ぼすことのない「上手な怒り方」を身につけることが必要なのだ。

「偉そうに。そんなことわざわざお前に言われなくても分かってる!」

 今、心の中でそう叫んだ貴方。まずは6秒間深呼吸をしてみてください。

ノンフクション・ライター 窪田順生

窪田順生(くぼたまさき)
1974年生まれ。雑誌や新聞の記者を経てフリーランスに。事件をはじめ現代世相を幅広く取材。『「愛国」という名の亡国論』等の著書がある。

週刊新潮 2020年11月5日号掲載

特集「キーワードは『6秒間』『魔法の言葉』『ツボ』…疫病禍『ギスギス社会』で『イライラ』を抑える7つの知恵」より

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