中条あやみ「閻魔堂沙羅の推理奇譚」は、謎解き推理モノ好きにはたまらない

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「死者復活謎とき推理ゲーム」で生き返るチャンスが

 目が覚めると、そこは別世界。記憶もおぼろげ。なぜ自分はここにいるのか。ここはどこ? ふと見上げると、ロックテイストというかゴスロリの中条あやみが自分を見下ろしている。いや、見下している。そして「ヘタレ」だの「貧乏人」だのと、面と向かってディスられ、人格否定一歩手前のダメ出しを浴びせられる。「これ、何の罰ゲーム?」という始まりのドラマが「閻魔堂沙羅の推理奇譚」(NHK土曜23:30~)である。

 中条が演じるのは閻魔大王の娘・沙羅。死者が送り込まれてくる閻魔堂では、毎回、天国行きか地獄行きかの審判が下される。

 閻魔大王に代わって、娘の沙羅が審判を担当するのだが、生き返りたいと願う人間にはチャンスを与える。その名も「死者復活謎とき推理ゲーム」。

 制限時間を設け、今ある情報から自分を殺した犯人を推理して、正解すれば生き返らせてやる、というのだ。

 わー、つらい。正直キツイ。「地獄の沙汰も自己責任」という文字が頭に浮かぶ。時の首相の「自助・共助・公助」なる冷酷な言葉も浮かんじゃったよ。

 でも、発想は面白い。

 ただ単に変わりモノの探偵が凡人を巻き込んで大騒ぎしながら推理するだけのドラマでは、既視感満載で視聴者にそっぽ向かれちゃう。被害者に推理させるっつう無茶ぶりには、新奇性がある。

 原作は木元哉多の小説シリーズだが、この不思議な世界観をどう映像化するのか。小規模なファンタジーなら、フジテレビの「世にも奇妙な物語」あたりでちょちょっとやっつけられるけどな。

 裁きの舞台となる閻魔堂を、ちゃちいCG+スタジオ撮影で済ませたら、せっかくのファンタジーが台無しやで。

 そこで挙手できるのは、やはりNHKしかないわけで。資金源も人材も費やせる時間も必要なブツも豊富なNHKだもの、きっちり見せてくれるに違いないと、ややハードルを上げて観始めたわけだ。

意外な見どころのひとつはロケ地

 ということで、このドラマの見どころのひとつはロケ地である。

 第1話の閻魔堂からすごくよかった。天井は吹き抜け、広い階段状になっていて、足元一面に水が満たされ、幻想的なライティングがほどこされている。

「これ、どこ!?」と思わせる素敵な絵ヅラだった。クレジットを見ると、「大阪府立狭山池博物館」。

 物語が進むと、足元は円形に埋め尽くされた石畳。どうやら本物。つまり「これ、どこ!?」の連続である。

「おいおい、推理に集中しろや!」と思うかもしれないが、舞台が素敵すぎて場所を特定したくなってしまう。

 コロナ禍で、どこにも行けない閉塞感もあいまって、「行ってみたーい」と思ってしまったのである。

 ホームページにすぐ飛ぶと、建築家・安藤忠雄の名が…。忠雄の呪いにすっかり魅了されてしまう自分がいて、ちょっと恥ずかしい。

 そして、この狭山池博物館、利用料金が意外とお安いことを知る。え、1日1300円!? ウソでしょ!? 台所事情大変そうなのに、大阪府の太っ腹に感動したのだった。

 第2話の閻魔堂は、またガラリと変わって、極彩色の花や植物が咲き乱れる南国ガーデン風。ガラス張りの壮大なアトリウムは、「兵庫県立淡路夢舞台温室 奇跡の星の植物館」だ。

 ここも素敵だし、昼と夜で表情が変わる舞台の面白さや特性を生かした撮影になっていた。花の名前は知らないけれど、「行ってみたーい」と思った。

 ちなみに、こちらの利用料金は長丁場になるとお高くなるかも。それでも一般人も利用でき、ウェディング撮影も可能だそうで。

 あれ? Go Toキャンペーンの回し者みたいな原稿になってきちゃった。時を戻そう。

ある意味、視聴者参加型に近い

 閻魔堂の魅力に合わせて、中条の衣装やメイクも様変わりしているのが興味深い。

 ファンタジーには衣装のコンセプトや遊びが重要だと思っているので、あえて着目してみた。

 第1話では、上瞼はメタリックなグレーブルー、下瞼は赤とトリッキーなアイメイク。閻魔っつうか、栄養足りていない悪魔っぽくて可愛い。

 スタッズのついた首輪に、黒を基調としたロックテイストの服だが、鹿の絵のTシャツはそこはかとなく関西のおばちゃん風。

 ほら、虎とか豹とかの顔がバーンとついたシャツを着るでしょ。あれのオシャレ版な。

 第2話では真っ白なレースにビスチェ、全体的に甘めロリータ風味だが、極彩色の花に囲まれると、より引き立つ。衣装がちゃんと舞台に合わせて計算されているのだ。

 メイクも、白いアイラインをポイントで入れて、目尻がきゅるんと跳ねた小悪魔風に仕上げてある。

 ただし、定番のユニフォームは深紅のマントだ。要所要所で「妖怪人間ベム」チックなマントを羽織り、場面転換の小道具としても印象付けている。

 基本がドSで上から目線の沙羅は淡々としたキャラクターなだけに、服装の変化には遊びが必要。そういうところだけを観ていても、ちょっと楽しい。

 で、肝心のドラマの中身はどうなのよ。謎を解く推理モノが好きな人にはたまらない構図だ。

 前半15分の間に、事件のあらましと登場人物が再現される。毎回のゲスト俳優(つまり劇中の被害者)とともに、犯人を推理する時間もある。

 30分ドラマだが、きっちり密に情報を詰め込み、登場人物も視聴者も推理しやすく作られている。ある意味、視聴者参加型に近い。

 そういえば、つい先日までテレ東で「歴史迷宮からの脱出」というドラマが放送されていた(11月7日放送終了)。

 リアルタイム視聴者参加型の謎解きドラマで、アプリをダウンロードして解答を送信するというシステムだった。

 若い人はこういうゲーム感覚が楽しめるだろうし、テレ東はドラマに「視聴者参加型」を積極的に組み込んでいる。

 成功しているかどうかはわからんが、新規顧客獲得に挑戦し続けているので、その姿勢には拍手を送りたい。

 参加はしないが。でも、要潤のちょっぴり間抜けな三枚目演技を心の底から楽しんだよ。

ダメ出しするだけで終わらないところも見どころ

 閻魔堂に話を戻そう。

 中条が死者に対してダメ出しするだけで終わらないところも見どころだ。

 その人となり、長所や周囲の評価、本人が知らない事実をしっかり吟味。そのうえで推理ゲームをもちかけているので、善人は救われるし、プラスの要素を加えて現世に戻してあげるので後味は悪くない。

 つまり、ほっこりええ話なのだ。少なくとも第1話の小関裕太、第2話の賀喜遥香は、人としてまっとうな優しさや思いやりをもった善人だった。

 おそらく、全8話のゲストがすべて善人ではないだろうとも予測できる。なんとなく『蜘蛛の糸』のカンダタを思い出す。

 第6話のゲスト・村上淳あたりは地獄に落ちないかなとか、第7・8話のゲスト・牧瀬里穂(超久しぶり!)にはそれ相応の仕掛けがあるんだろうなとか。

 奇譚というからには、期待値上げていきますよ、こちらも。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月14日掲載

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