FAの超目玉「大野雄大」、他球団よりも中日に残留したほうがいい3つの理由とは

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 両リーグの優勝、パ・リーグのクライマックスシリーズ進出チームも決まり、来シーズンに向けての動きが活発化する時期となった。FA戦線では山田哲人の動向に注目が集まっていたが、ここへ来て目玉に浮上してきたのが中日のエース、大野雄大だ。改めて昨年と今年の成績を見てみると以下の通りとなっている。

2019年:25試合 9勝8敗 防御率2.58 2完投(2完封)
2020年:20試合 11勝6敗 防御率1.82 10完投(6完封)
※2020年の成績は11月9日現在

 大野は昨年9月にノーヒットノーランを達成し、最優秀防御率のタイトルを獲得しているが、今年はさらにそこから大きく成績を伸ばしてみせた。特に圧巻なのが完投数と完封数だ。セ・パ両リーグにおける大野に次ぐ完投数は西勇輝(阪神)の4、完封数は菅野智之(巨人)の3であり、いかに大野の数字が突出しているかがよく分かる。

 1回あたりに何人の走者を出したかを示すWHIPも規定投球回数に到達した投手では12球団トップで、防御率、奪三振のタイトル獲得が確実視されている。もし、FA権を行使するようなことになれば、激しい争奪戦となることは間違いないだろう。

 だが、大野の成績と過去の事例を見てみると、他球団への移籍に対する“不安要素”もいくつか見えてくる。まず挙げられるのが球場による成績の差が大きいことだ。過去2年間の本拠地であるナゴヤドームと敵地の成績を比べるとそれは顕著だ。

 本拠地で2019年は7勝5敗で2完封、2020年は9勝2敗で5完封と素晴らしい成績を残しているのに対して、敵地ではいずれの年も負け越している。過去2年の防御率もまた同じ傾向で、本拠地では1点台に抑えているが、敵地では3点台と相性がよくない。

 こうした点を踏まえると、大野が、他球場よりも広い本拠地で強さを発揮しているかがよく分かる。ちなみに最優秀防御率のタイトル争いを演じている森下暢仁(広島)、西勇輝(阪神)、菅野智之(巨人)の成績を見ても、このようなホームに突出して強いという傾向は出ていない。言い方は悪いが、圧倒的な「内弁慶のエース」なのだ。そして、大野はセ・リーグの本拠地の中でも最もホームランが出づらい数字が出ているナゴヤドームでも、今年は8本の被本塁打を許している。これが他の球場が本拠地となれば、さらに数字が悪化する可能性は極めて高いはずだ。

 次に気になるのが、過去にFAで中日を去った選手たちの成績である。これまでFA権を行使して他球団へ移籍した中日生え抜きの投手は野口茂樹、川上憲伸、中田賢一、高橋聡文の4人。この中では中田が移籍先のソフトバンクでも先発の一角に定着したが、高橋は移籍後2年間しか戦力とならず、野口にいたっては巨人で1勝しかあげることができなかった。

 川上も期待は大きかったが、メジャーでプレーしたのは2年間で8勝22敗という成績に終わっている。それぞれ移籍したタイミングや、移籍先のチーム事情も異なるため単純に比較することはできないが、この前例をみると、大野のFA移籍が自身のプラスにつながるか、考えなければならないことだろう。

 本拠地・名古屋という土地は、中日のスター選手に対する支持は熱狂的なものがあり、また多少成績が落ちても。巨人や阪神などに比べると、バッシングされることも少ない。言ってみれば一度主力になると、不要なストレスが少ない環境と言われているのだ。そのことがマイナスに働くケースがあることも事実だが、ベテランになってからも安定して活躍できる要因とも言える。そんな環境から大きな期待を受けて他球団に移籍した時に、これまで経験したことのないようなストレスがかかることは間違いないだろう。

 最後は感覚的な話になるが、大野の気質的なことも残留に向いているように感じる。京都外大西時代は甲子園に出場しているものの、注目されるような投手ではなく佛教大に進学している。大学時代に大きく実力を伸ばして、4年時には全日本大学野球選手権で見事な投球を見せたが、その後に行われた世界大学野球選手権の日本代表からは落選。ドラフト1位でのプロ入りだったものの、最後のシーズンでは肩を痛めた影響で登板することができず、その指名に対して懐疑的な意見も少なくなかった。

 そんな逆境が巨人や阪神といった“権威の象徴”ともいえる球団に立ち向かっていく原動力になった部分は少なからずあったはずだ。FAで移籍することによって、そのような強い存在への対抗心が薄れてしまうことも“不安要素”と言えそうだ。

 令和の時代に昭和を感じさせる数少ない選手とも言える大野。移籍するのはもちろん本人の自由であるが、昭和の大エースのように同じ球団を背負い続ける姿を見たいと感じているファンも多いはずだ。結果はどうなったとしても、そんなエースに対して、中日が球団として、大幅な年俸アップや複数年契約といった“最大限の誠意”を見せてくれることを期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月10日掲載

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