風吹ジュンは誘拐されホテルで軟禁… 昔、芸能人の事務所移籍はこんなに大変だった

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沢尻、安室もひと苦労が…

 「最近はそんなことはない。沢尻エリカだって、スターダストプロモーションからエイベックスにすんなり移籍したではないか」と言う人もいるもしれない。だが彼女の場合、2009年にスターダストを辞めた後、2010年にスペインで個人事務所を設立している。そこでは本格的な芸能活動はせず、2011年にエイベックスと業務提携契約を締結し、それから女優として芸能界に復帰した。“夫である高城剛の存在が業界から疎まれ、「芸能界のドン」が高城との離婚を芸能界復帰の条件として突きつけた”“復帰に当たってはスターダストへの謝罪も求められた”などと当時は報じられた。芸能界へ復帰するにあたって、かなりのゴタゴタがあったようだ。

 2018年に芸能界を引退した安室奈美恵は、15年1月、デビュー以来所属していたライジングプロダクションを退社し、エイベックス内のプライベートレーベルに移籍した。ライジングもエイベックスも音事協に加盟しているが、音事協所属事務所間でのタレントの移籍は、今も昔も前例がないはずだ。それほどの電撃移籍だった。

 とは言え、やはりそこに至るまでには、様々な軋轢があったようだ。安室の独立騒動が持ち上がったのは、2014年8月ごろ。当時の報道によれば、同年5月、ライジング幹部に「独立したい」と切り出し、後日、契約条件の変更を迫る提案書を持参したという。そして印税などの取り分について、事務所との間で意見の食い違いがあったとされる。またこの時、大物アーティストのコンサート運営を手がける会社代表が、安室に独立を唆したとしきりに報じられていた。「洗脳されている」というのは、沢尻のケースと同様、タレントの独立騒動ではよく噂される話だ。

 結局、独立ではなくエイベックスへの移籍となったわけだが、そこには「移籍を強行したとしても、芸能活動は続けられる」という読みが安室側およびエイベックスにあったからではないかと筆者は推測する。当時の安室は、テレビ出演を控え、芸能活動の軸足をコンサートに移していた。またYouTubeなどネットメディアを使ったプロモーションも普及しつつある時代だった。仮にテレビで干されたとしても、コンサートさえできれば安室は芸能界で生き残ることができる。安室の後ろ盾とされた会社代表は、コンサート運営のプロであり、そのあたりの事情にも明るかったであろう。

ジャニーズも退社相次ぐ…今井翼の移籍に注目

 芸能界の移籍問題が特に注目され始めたのは、2016年に起きたSMAP解散騒動がきっかけだった。これを機に、公正取引委員会(公取委)もこの問題に本格的に関心を持つようになった。2018年2月には、タレントなどフリーランスに対して、不当な移籍制限などを一方的に課すことは、独占禁止法違反にあたる恐れがあるという報告書を発表。翌2019年7月には、SMAPの元メンバーらの出演をめぐり、ジャニーズ事務所が民放テレビ局などに対して圧力をかけていたとして、独禁法違反につながる恐れがあると「注意」している。音事協など芸能事務所団体に対しても、契約や取引慣行の適正化についての要請がなされたり、公取委の職員が、タレントを相手に事務所との契約や取引慣行に関して解説する説明会なども実施している。こうした環境の変化が、オスカーのタレント退社を加速させている側面はあるだろう。

 人材の流出は、オスカーだけでなく、ジャニーズ事務所にも及んでいる。今年はすでに元SMAPの中居正広、NEWSの手越祐也が退所し、今年12月末には少年隊の錦織一清と植草克秀が、来年3月にはTOKIOの長瀬智也が退所を予定している。

 特に、2018年にタッキー&翼を解散し、ジャニーズを退所した今井翼は注目に値する。2020年に「めざましテレビ」(フジテレビ系)に生出演し、1年1か月ぶりにテレビ復帰を果たしたわけだが、その後、松竹芸能の関連会社である松竹エンタテインメントに所属していることを明かしたからだ。従来の芸能界の論理で言えば、大手芸能事務所を辞めたタレントは、元所属事務所からの圧力を恐れ、大手で引き受け手が見つからないことが常識だった。そうしたタブーが打ち破られた格好である。

 公取委が介入に乗り出したことで、タレントの独立・移籍は加速するだろう。

星野陽平(ほしの・ようへい)
フリーライター。1976年生まれ。東京都出身。2001年、早稲田大学商学部卒業。2017年には『芸能人はなぜ干されるのか?』の著者として、公正取引委員会で講演を行った。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月2日掲載

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