風吹ジュンは誘拐されホテルで軟禁… 昔、芸能人の事務所移籍はこんなに大変だった

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 近年、芸能人が事務所を移ることは、それほど珍しい話ではなくなった。だが歴史を繙くと、そこには移籍をめぐる様々な軋轢があった。『芸能人はなぜ干されるのか?』『芸能人に投資は必要か?』の著書で、芸能界の雇用問題に切り込んだフリーライターの星野陽平氏が、今昔の移籍事情を解説する。

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 大手芸能事務所、オスカープロモーションの人材流出が止まらない。

 オスカーといえば、1970年設立の老舗で、7000名近いタレントを抱える業界の最大手だ。また「美の総合商社」と呼ばれるほど多くの美人タレントを輩出してきた。ところが、昨年末から今年にかけて、米倉涼子や忽那汐里、岡田結実、長谷川潤、ヨンア、草刈民代、紫吹淳、福田沙紀、剛力彩芽、堀田茜、森泉……と、売れっ子が相次いで退社している。米倉や剛力らはフリーとして活動を続けるが、岡田はViivo、長谷川とヨンアはIsle management、草刈はワタナベエンターテイント、堀田は渡辺プロダクション系列のトップコートと、別事務所に移籍するタレントも多い。10月17日にオスカーを辞めた森泉の新天地はウォークという事務所だ。

 相次ぐ退社の一因は、古賀誠一会長の娘婿のパワハラとも報じられているが、近年、タレントの雇用の流動化が進んでいるのも事実だ。筆者は2014年に『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占金禁止法違反』(鹿砦社)を上梓し、タレントの独立や移籍を阻む芸能界の体質を問題視してきた。改めて、タブーとされた芸能人の独立や移籍について考察しよう。

風吹ジュン誘拐事件

 所属するタレントが独立したり、タレントに移籍されれば、芸能事務所にとって大きな痛手だ。また、それらが当たり前になると、各芸能事務所はタレントの争奪戦を繰り広げるようになる。やがてはタレントのギャラが高騰し、芸能事務所の体力を奪いかねない。そのため芸能事務所はタレントの独立や移籍を防止する策を講じてきた。

 古くは1953年、大手映画会社5社が、所属する俳優の引き抜き防止カルテルを結んでいる。それを引き継いだのが、1963年に設立された芸能事務所の業界団体・日本音楽事業者協会(音事協)だ。芸能事務所の意向を受けて、マスコミもこれに追従。タレントの独立・移籍の禁止は「芸能界の掟」として定着していった。

 当然ながら、タレントが独立・移籍することは、法律上なんの問題もない。労働基準法の規定によれば、1年を超える期間の雇用契約は申し出をすればいつでも退職できるとされている。つまり、雇用契約を結んで1年が経過すれば、タレントはいつでも事務所を辞めることができるのだ。だから、芸能事務所は、引き抜き禁止のカルテルを結んだり、裏から手を回してテレビ局に圧力をかけるなどの手法を取ってきた。そんな中、音事協に加盟していない小さな芸能事務所では、タレントの移籍や独立に際して、暴力団を使って邪魔していたことがよくあったようだ。

 かなり古い話になるが、1974年9月に「風吹ジュン誘拐事件」が起きた。当時、風吹はアド・プロモーションという事務所と仮契約を結んでいたが、レコードがヒットしても月給は23万円に過ぎなかった。これに不満を持ち、倍の月給を提示してきたガル企画という事務所に移籍してしまった。そんな折、フジテレビで収録を終えた風吹の前に、旧所属事務所であるアドプロのマネージャーなど3人が現れ、風吹の腕をつかんで連れ去ってしてしまったのである。彼らは風吹をホテルに軟禁状態にし、事務所移籍を考え直すよう迫ったのだ。

 風吹が「翌日の仕事のため衣装を取りに行かなければならない」と言い、階下に降りたところ、待ち構えていた大勢の警官によって保護されることとなった。人だかりの中には包帯を巻いたガル企画の石丸末昭社長の姿もあった。この間、石丸社長は、暴力団の事務所で監禁され、暴行を受けていたというのだ。風吹を軟禁した中には作詞家のなかにし礼もいたが、石丸社長は自身の解放の条件として、風吹との契約を解除するよう、なかにしの実兄の中西正一から迫られたという。

安西マリア失踪事件

 また、1978年には「安西マリア失踪事件」が起きている。「涙の太陽」でデビューした売れっ子の彼女が失踪してしまったのは、所属していた事務所の竹野博士社長の“パワハラ”に耐えられなくなったからだ。安西がテレビ撮影に遅刻した際、腹を立てた竹野社長は安西のマネージャーを叱責・暴行。さらに安西と安西の母親を呼び出し「オレは前科24犯。人をブッ殺すことなんか、なんとも思っちゃいねえんだ」と恫喝し、給料の減額を迫った。竹野社長は広島の暴力団、共政会の元幹部だった。安西とマネージャーはそんな竹野社長を恐れて、失踪したのだった。

 ポイントはこの事件で裁判が行われた際の、安西の次の証言だ。

「(竹野社長から)背中のイレズミをなんだと思っているのか。これを使ってホリプロとのもめごとを解決したんだって。こうなると広島から若いものを連れてこなくちゃならんな、などといわれて、私は泣き出してしまいました」

 安西は竹野社長の事務所に所属する前、ホリプロ傘下の芸能事務所に所属していた。当時の報道によると〈彼女(※安西)をスカウトした人間が800万円からの借金をつくっていて、それが移籍のさい問題になった〉(『女性セブン』1978年8月24日号より)。この借金は安西の移籍にあたり、違約金として竹野社長に請求されたが、彼は背中のイレズミを見せることでチャラにしたという。つまり竹野社長は前事務所を脅し、安西を移籍させたということだろう。今なら間違いなく警察沙汰である。

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