タイ反政府デモに「セーラー服」「ハム太郎」… 現地記者が最前線を実況中継
タイで反政府デモが続く。プラユット首相の退陣や王室改革を求める若者たちと治安当局との間で衝突も発生している。反政府運動の指導者らの逮捕も相次ぐ。そんな緊張にもかかわらず、微笑みの国のデモは温かい。現地で取材を重ねる記者が見た「リアル」は……。
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10月中旬、首都バンコクにある「戦勝記念塔」のロータリー。午後4時に周囲の歩道にいた若者たちが掛け声とともに一斉に集結すると、拘束された活動家たちの似顔絵を掲げて、解放を求めるシュプレヒコールを上げる。またたく間に数千人がデモ隊に加わり、周辺の道路まで封鎖した。
と同時に、バイクごと移動できる屋台の群れがどこからともなく現れる。デモ隊が占拠する車道にやおら進入し、揚げたソーセージや、シューマイ、麺類などを売り始める。南国の熱を帯びたアスファルトに座り込んだ若者たちが、すぐに群がる。
バンコクのデモは一時、直前まで場所と時間を明らかにしない「香港スタイル」が取られた。5人以上の集会を禁止した当局の取締りをかいくぐるためだ。主催グループは、1~2時間ほど前にツイッターで告知。スマホで情報をフォローする若者らが駆けつけてデモを敢行する。
メディアの我々もツイッターを見て、現場に急行する。すると数店の屋台が既に待ち受けている。その情報力からネットで付いた屋台の別名が「CIA」。30代の現地女性は「警察より早耳」と笑う。座り込みためのゴザやうちわ、雨が降ればレインコートの売り子もどこからともなく現れる。デモ隊が欲しがるものを、一歩先回りして届けて回る。庶民の商魂は、政情不安もなんのそのだ。
集会禁止の解除後のデモ現場で、5個20バーツ(約67円)でシューマイを売る屋台に調子を尋ねた。「普段より80%アップだよ」。あるじが親指を立てた。その日は前日にデモの告知があったので、いつもの持ち場である1・5キロ先のオフィス街から転戦してきたという。にんにくチップが振りかけられたシューマイが、立ちっぱなしの身体に染みた。
「スクンビットXX番通りのお兄ちゃん!」
ある日のデモの終盤、呼び掛けに振り返ると、前日のデモの帰りにお世話になったバイタクの運転手だった。いつの間にかお得意さんとみなされたようで、「もうしばらく待っていて」と約束して離れた。お抱え運転手でもできたかのようだった。
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