もし北朝鮮軍と自衛隊が戦闘することになったら… 自衛隊を知り尽くした漫画家、元特殊部隊員が明かす「国防」のリアル
「月」でタイムスリップに気づく仕掛け
か 『ジパング』で「やったぞ」と思ったのは、タイムスリップしたことに本人たちが気付くシーンです。横須賀から出てハワイの手前辺りに来たら、夏なのに雪が降る。わっと甲板に出たら後ろに戦艦「大和」が来ていて、最初はみんな「大和」の方が今の時代に来たと当然思う。まさか自分たちがあの時代にタイムスリップしたとは思わない。そこで時代を思い知らせるのが「月齢」なんです。月が違う。きのう見た月と今日の月は違う。あの辺はタイムスリップものを描く醍醐味でした。
伊 あのシーンはよく覚えています。よく船乗りのことをご存じだなと思ったんです。月齢が幾つか、普通の人にはわからないけど船乗りには絶対にわかる。月は大事で、みんな実用的に見ていますから。
か その結果、みんな愕然として、自分たちが「大和」の時代に来たんだとわかる。これはまずいことになったぞ、と。あれを描いたときに、なにより、自分がわくわくして(笑)。
伊 船乗りとしてもわくわくしました(笑)。海を描かれるのはお好きなんですか。
か 家業がもともとは海運業だったんです。戦争で駄目になった後、おやじが帰ってきて、船の給油会社に就職して、そこで顔なじみが増えたので、独立して会社を興したんです。
船の給油船を尾道では「タンク船」と呼びます。10トン未満、長さでいうと7~8メートルぐらいの小さい船ですが、船長と機関長が2人乗らなきゃいけない。おやじは1人でやっていて、海上保安庁に見つかると注意され何回かで罰金ですが、子どもが1人でも乗っていればいいから、自分と双子の弟を代わりばんこに乗せていました。
伊 子どもの機関長ですか(笑)。
か 楽しかったですよ。岸壁や給油する船に結ぶ綱を取る役もして、小型の船舶には実感として慣れたし、船のどこが面白いか、どこが怖いかという知識は皮膚感覚としてあったんですね。おやじは映画が好きで、よく一緒に連れ立って観る映画もだいたい海軍もの。生い立ちも含めて、海や海軍の話が描きやすかったかもしれません。
アメリカ空母に乗船してみると…
伊 日常的に船の上にいると、これ以上はないという美しい海の風景を見ることがあります。
か 故郷の瀬戸内海は漁船が多いのですが、内海の漁船の作りは外洋とは全く違うんですよね。例えば、かみさんが青森の八戸なんですが、八戸のイカ釣り漁船の作りは全然違う。見ただけで出かけて行く海の違いがわかります。『邦人奪還』の潜水艦の記述にも、これは外洋だな、とひしひしと痛感させられました。
伊 瀬戸内海の風景は格別ですよね。
『空母いぶき』では、「尖閣諸島中国人上陸事件」が発生し、その1年後に海自初の空母「いぶき」が完成。その艦長に、航空自衛隊の戦闘機パイロットとして名を馳せた秋津竜太1佐が着任しますね。その演習航海中に、中国軍が与那国島や尖閣諸島を占拠するところから、史上初の防衛出動にまで至る――その細部が非常にリアルで、迫力があります。そもそも、アメリカでは空母の艦長はパイロット出身が多いということはご存じだったんですか?
か この話を描こうと調べ始めてから知りました。戦後日本では空母の運用例がないので、米海軍の慣習に従った方がいいかと考えました。
伊 私は米空母「キティホーク」に乗ったことがあるんです。乗ってびっくりしました、パイロットが艦長なのかと。旧日本海軍の空母の多くは船乗りが艦長でしたが、アメリカではパイロットなんです。
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