ブリーダー大量廃業で犬猫13万頭が「殺処分」? 「小泉進次郎」のペット規制で
科学的根拠に乏しい
全国ブリーダー協会で名誉学術顧問を務める筒井敏彦氏も懸念を口にする。
「問題は数値規制に科学的根拠が乏しいことです。私は獣医学者の立場から犬と猫のブリーディングの研究を続けてきましたが、犬のサイズにかかわらず同じ規制をかけることには首を傾げざるを得ません。小型犬の平均寿命は15歳前後で、大型犬は平均10歳前後。“交配は6歳まで”と定めたところで、大型犬と小型犬では寿命や繁殖能が大きく異なります。“8週齢規制”にしても、生後7週で親から離した場合と、生後8週の場合のデータに科学的な違いはありませんでした。せっかく殺処分数が減り続けているのに、きちんとしたデータに基づかない規制によって増加に転じたら元も子もありません」
実は、平成30年度における犬と猫の殺処分数は3万8444頭と、平成19年度の約30万頭から大きく数を減らしている。にもかかわらず、動物愛護を目的とした新基準によって、大量の殺処分を招く事態になったら話になるまい。
他方、滝川は13年10月に公開されたウェブ上の記事でこんな発言をしていた。
〈海外では産後8週以内の赤ちゃんの販売は禁止されています。生まれてすぐに親から引き離され、精神的にも不安になり、病気の状態もわからない〉(「DRESS」HPより)
滝川の発言は“8週齢規制”を後押ししたもので、さらに夫の所管大臣就任で動物愛護行政をラジカルに動かした格好である。
「悪徳ブリーダーを排除するという目的自体には賛成です。しかし、今回の基準は全く実情に即していないと感じています」
そう打ち明けるのは、都内で約100頭の犬を扱うブリーダーの臼井祐子氏。
「私はシェットランド・シープドッグ、通称“シェルティ”という中型犬を専門に飼育しています。実は、今年2月に新居が完成して、冷暖房を完備した犬たち専用の部屋を作ったばかり。いまのケージは犬たちが立ち上がっても頭が天井に触れない高さですが、基準案に沿った大きさや素材で新調すると、ひとつ2万5千円かかります。100頭分だと出費は250万円にのぼりますし、専用部屋に入り切りません」
臼井氏を含めスタッフは7人いるため、いまのところ頭数規制には引っ掛からない。しかし、
「一人でも辞めたら、その分の繁殖犬15頭はどうしたらいいのか……。ブリーダーとしての責任があるので、譲渡する際にはシェルティを飼育する大変さをきちんと伝えています。そのため、里親が見つかるのは年に2~3頭程度です。今後は善良な業者ほど法律を守ろうとして追い込まれていくでしょう。その反面、悪徳ブリーダーが“こんなに基準が厳しいならもう殺すしかない”と考えるのではと心配でなりません」
その一方で、動物愛護派からは「もっと厳しい基準を」との声が上がっている。
新基準がペット業界を混乱に巻き込んでいることについて環境省に質すと、
「基準の施行に伴う遺棄、殺処分、不適正飼養等を生じさせないよう、繁殖を引退した犬猫や保護犬猫の譲渡が促進される環境づくりを進める」とした上で、「経過措置について検討する」と回答したが、具体的な解決策は見えてこない。
そもそも、賛否の割れるテーマで手腕を振るうのは政治家の役割だろう。だが、いまの環境大臣に、妻をはじめとする急進的な動物愛護派と、悲鳴をあげるペット業界の双方を納得させるだけの手腕があるかと問われれば、“否”と言わざるを得ない。
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