「巨人」の戦略に賛否両論…ドラフト「勝ち組球団」と「負け組球団」はどこなのか?

スポーツ 野球

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 10月26日に行われたプロ野球ドラフト会議。新型コロナウイルスの影響でペナントレース中に開催され、また多くのアマチュア野球の大会が中止になったという意味でも異例のシーズンだったと言えるだろう。そんな中でも支配下で74人、育成で49人の合計123人が指名されたが、的確な補強ができた「勝ち組」と疑問が残るような指名となった「負け組」はどこなのか、探ってみたい。

 まず、一番人気となった早川隆久(早稲田大)を引き当てた楽天、佐藤輝明(近畿大)を引き当てた阪神はそれだけでかなりのプラスと言えることは間違いない。楽天は先発投手、阪神は外野手の世代交代が大きな課題であり、それを解消するための選手としてともに大きな存在となりそうだ。

 楽天は2位以下でも高田孝一(法政大)、藤井聖(ENEOS)と実力派の大学生、社会人投手の指名に成功し、下位でも将来性豊かな内星龍(履正社)を獲得。投手陣の底上げというテーマは確実にクリアした印象だ。阪神は大山悠輔、井上広大に加えて佐藤というスケールのある強打者タイプが加わったことで、野手陣の将来像が一気に明るくなったように見える。

 そんな2球団以上にトータルで見て良さが目立ったのが日本ハムと中日だ。日本ハムは大学生ナンバーワン右腕の伊藤大海(苫小牧駒沢大)を単独指名。総合的な実力と安定感では早川を上回るものがあり、またリリーフ適性も高いことから抑え不在のチームにはこれ以上ない選手と言える。いきなりクローザー定着ということも十分考えられる。また2位で、プロ野球史上最高のスピードを持つ選手となることが確実な俊足外野手の五十幡亮汰(中央大)、3位で強打が持ち味の大学ナンバーワン捕手の古川裕大(上武大)の獲得に成功した。さらに、4位以下の高校生二人も将来豊かで、6位の今川優馬(JFE東日本)は社会人を代表する強打の外野手とチームの補強ポイントに的確な選手を次々と指名できた印象だ。

 一方、中日は高校ナンバーワン投手の高橋宏斗(中京大中京)を単独指名し、2位でも1位候補に挙げられていた森博人(日本体育大)を獲得。下位で指名した高校生投手もまた特徴のある二人で、投手に関しては“満点”と言える指名だった。もう少し打者の強打者タイプも狙いたかったが、守備では高校ナンバーワンショートの呼び声高かった土田龍空(近江)を3位で指名したように、若手野手にも目が向いていた点は評価できる。

 課題の投手陣を積極的に補強した広島とヤクルト、逆に野手の世代交代に舵を切ったソフトバンクと西武もチーム事情を考えると理解できる指名で、投手陣をさらに手厚くしたい狙いの見えたロッテも及第点という印象だ。

 賛否が分かれそうなのが巨人とオリックスだ。巨人は佐藤を外したことで方針転換し、上位で投手二人を指名。エースの菅野智之のメジャー移籍が現実味を帯びてきただけに、補強ポイントにはマッチした戦略と言える。ただ1位の平内龍太(亜細亜大)、2位の山崎伊織(東海大)ともに最終学年で肘の手術をしているいわゆる“故障上がり”の投手である。平内は秋のリーグ戦には復帰して、最速156キロをマークしているが、まだ万全な状態ではなく、山崎はトミー・ジョン手術のため来年はリハビリに費やすことになる。ともに、万全な状態であれば大学球界でも屈指の実力者だが、完璧な状態に戻る保証はないだけにハイリスクハイリターンの指名だったと言えるだろう。ただ、菅野の後釜となると簡単に見つかるものではなく、中途半端な即戦力に向かわずにスケールに振り切ったという点は評価できそうだ。

 オリックスは、佐藤を外して高校生右腕の山下舜平大(福岡大大濠)を指名した。さらに2位から4位までも高校生を並べ、以前の社会人中心の方針から改めて変わったことを印象付けた。高校生はモノになった時は大きいが、全く戦力にならないケースも少なくない。チームが最下位という時にこのような指名で大丈夫かという声も聞こえてくる。ただ目先ではなく、とにかくチームのスケールを大きくしようという意欲は非常に感じられる指名であり、上手く転がれば数年後は見違えるような布陣となっていることも期待できるだろう。

 最も疑問が残ったのはDeNAだ。抽選を避ける傾向が強いが、今年も1位で入江大生(明治大)を単独指名。2位で牧秀悟(中央大)、4位で小深田大地(履正社)という大学と高校を代表する強打者を指名したのはプラスだったが、やはり最も重要な1位を軽視しているように見える。多少のリスクを冒してでも目玉選手を狙いに行く姿勢が全く見えないのは大きな疑問だ。また、育成まで含めて4人の左投手を指名しており、ここ数年続いているサウスポー偏重傾向も継続している。個々の選手自体の能力は決して不満はないものの、もうひとつ狙いが分からない指名に終始したという印象だ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月28日掲載

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