セ・リーグは“パの二軍”なのか…「巨人」独走を許したセ5球団の多すぎる問題点

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 プロ野球のペナントレースもいよいよ大詰めだが、セ・リーグは2位以下に大差をつけた巨人のリーグ連覇が決定的となっている。シーズン序盤の7月14日に一度ヤクルトが首位に立ったことはあったが、それ以降は巨人が着々と勝ちを重ね、まさに独走という言葉がピッタリの戦いぶりだった。しかし個人成績を見てみるとエースである菅野智之以外はそれほど目立って好調だったわけではない。岡本和真が打点王を争っているとはいえ、セ・リーグの打率トップ10に一人も巨人の選手が入っていないのはそれを象徴しているといえるだろう。裏を返せば巨人が圧倒的に強いのではなく、他の球団が弱すぎるという見方もできる。そんなセ・リーグ5球団の問題点を洗い出してみた。

 7年連続Bクラスからの脱却が見えてきた中日だが、得失点差は大きくマイナスであり、まだまだ課題は少なくない。深刻なのはやはり長打力不足だ。昨年もリーグ最下位の本塁打数だったが、今年はそこからさらに減少しており、トップのDeNA、2位の巨人と比べると約半数という数字となっている。ホームランが出づらいナゴヤドームを本拠地としていることはあるが、過去10年と比べてみても最低水準というのは問題と言わざるを得ない。来年以降、ホームラン数を大きく伸ばせそうな日本人選手が圧倒的に不足しているというのが気になるところだ。高校卒ルーキーの石川昂弥は確かに楽しみだが、石川と切磋琢磨できるような強打者タイプの選手を積極的に獲得する必要があるだろう。

 何とかAクラス争いに踏みとどまっている阪神も野手の世代交代が大きな課題となる。大山悠輔が大きく成績を伸ばし、近本光司もシーズン序盤は2年目のジンクスに苦しみながらも見事な成績を残したのは大きなプラスではあるが、それに続く選手がまだまだ頼りない印象を受ける。今年は新外国人選手のサンズとボーアがまずまずの成績を残したが、過去を振り返っても外国人選手が長期的に活躍した例は決して多くない。やはり、日本人選手である程度チームの骨格を作れるようになる必要があるだろう。若手では2年目の小幡竜平とルーキーの井上広大という楽しみな選手が出てきただけに、この流れを加速させる必要がある。先日、大ベテランの福留孝介が構想外という報道が出たが、それを皮切りに思い切った世代交代を進めていくことを期待したい。

 ラミレス監督就任5年目で優勝を狙ったDeNAだったが、夏場以降大きく失速し、昨年の2位以下の成績となることが濃厚だ。メジャーリーグに移籍した筒香嘉智(レイズ)の穴を佐野恵太が埋めてみせたのは嬉しい誤算だったが、それでも優勝には遠く及ばなかったというところにチーム力の限界を感じる。投手陣では、まず先発の太い柱となれる投手が不足している。親会社がDeNAとなった2012年以降、大学生の投手を中心に獲得してきたが、2年続けて好成績を残した選手は皆無である。今年も今永昇太、東克樹が長期離脱となり、上茶谷大河も開幕から大きく出遅れていた。チームが低迷期だったために致し方ない部分があったことは確かだが、太い柱になれるスケールの大きい投手を獲得してこなかったツケが出てきていることは間違いない。その傾向は野手も同様で、佐野や宮崎敏郎などドラフトの下位指名で獲得した選手がブレイクしたという点はあるが、数年後のメンバーを考えると中軸候補がなかなか見えてこないのが実情だ。

 リーグ三連覇から一転して2年連続Bクラスに沈むことが決定的な広島。投手陣ではルーキーの森下暢仁が救世主的な存在となっているが、先発もリリーフも立て直しが必要なことは間違いない。特にリリーフは三連覇を支えた投手が軒並み勤続疲労で戦力となっておらず、新外国人選手も大きく外したことで一気に崩壊状態となっている。塹江敦哉、ケムナ誠、島内颯太郎といったスピードのある若手は出てきているものの、まだまだ頼りないのが現状だ。先発も長年チームを支えたK.ジョンソンの衰えが顕著で、野村祐輔、大瀬良大地、九里亜蓮の三人も中堅からベテランに差し掛かっているだけに上積みは望みづらい。森下以外の若手では遠藤淳志が楽しみだが、ドラフト上位で獲得した薮田和樹、岡田明丈、矢崎拓也などの中堅層が揃って停滞しているのが痛いところだ。チーム打率、得点は悪くないものの、伝統の機動力がすっかり鳴りを潜めており、近い将来、主砲の鈴木誠也がメジャー移籍となれば大きく得点力が下がることは確実だ。このまま暗黒時代に逆戻りする危険性も高いだろう。

 2年連続最下位が濃厚なヤクルトは、投手陣の再建を高津臣吾新監督に委ねた。しかしながら、大きな改善は見られないまま、シーズンを終えようとしている。先発の小川泰弘、クローザーの石山泰稚が国内FA権を取得しており、揃って移籍ということになれば、さらに苦しい状態になることは間違いない。広島のところでも触れたが、大きな問題は将来の主戦として期待してドラフト上位で獲得した投手が軒並み戦力となっていないところだ。過去10年に1位、2位で指名した選手では小川、石山以外で戦力になっているのは、今年中継ぎで奮闘している清水昇くらいしか見当たらず、既に球団を去っている選手も少なくない。故障者が多いというのも球団の悪い伝統になっている。スカウティング、育成の両面で問題があることは明らかだろう。野手では村上宗隆が4番に定着したというのは非常に大きなプラス要因だが、青木宣親、坂口智隆などまだまだベテランに頼っている部分も大きい。来季は山田哲人がFAで退団する可能性があるだけに、村上に次ぐ若手の輩出スピードを上げる必要がある。

 今年はシーズン短縮で中止となったが、過去の交流戦を見ても巨人以外のセ・リーグの球団がパ・リーグに大きく後れをとっていることは明らかである。昔から『人気のセ、実力のパ』とは言われていたが、このままではセ・リーグは“パ・リーグの二軍”と言われても反論の余地はないだろう。そのようなイメージを払しょくするためにも、今後の5球団の奮起に期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月24日掲載

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