ドラフト会議でサプライズ指名はあるか…「隠れドラ1候補」5人の実力は?

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 今月26日に迫ったプロ野球ドラフト会議。1965年に第1回が行われてからこれまでも数々のドラマが繰り広げられてきた。その中でも大きな衝撃を与えるのがやはりサプライズとも呼べる1位指名だ。最も有名なのは1985年に巨人が指名した桑田真澄だろう。桑田は早稲田大学進学を予定しており、また盟友である清原和博が巨人入りを熱望していたこともあり、世間を揺るがす大騒動に発展した。翌年には西武が北九州市立大を中退していた森山良二を1位指名。当時球団の管理部長だった根本陸夫が、野球部のない「ONOフーヅ」という企業に森山を囲い、突如指名したことで会場は騒然となった。また、近年では2017年に1位の抽選を三度外したソフトバンクが吉住晴斗を指名。本人も育成での指名を期待していたというコメントを残しているように、上位候補に全く挙がっていなかっただけにドラフト会場は一瞬静まり返った。

 高校生、大学生にはプロ志望届の提出が義務付けられ、以前と比べても報道量が増えたことから桑田のようなケースは不可能となり、また森山のような本当の意味での“隠し玉”が1位で指名されることもなくなっている。しかしながら、今年は新型コロナウイルスの影響で公式戦が少ないだけに、吉住のように事前の報道では評価が高くない選手が抽選での巡り合わせによって1位に浮上してくるようなケースは十分に想定される。そんな当日急浮上の可能性がある選手を探ってみたい。

 最初に紹介したいのが東海大の右腕、山崎伊織だ。明石商時代から控え投手ながら素材の良さは高く評価されており、大学進学後は2年から主戦として活躍。昨年秋のリーグ戦ではMVP、最優秀投手、ベストナインの投手三冠に輝いている。だが、その後に行われた明治神宮大会出場をかけた関東大学選手権で右肘を負傷。今年6月にはトミー・ジョン手術を受け、卒業後には社会人野球に進むと見られていた。

 事態が急変したのは今月7日。内定の出ていた企業チームの了承を得たうえで、突如としてプロ志望を表明、この決断に驚いたプロ関係者も多かったようだ。山崎は現在リハビリに取り組んでいるが、いまだにキャッチボールも再開していない状況である。一般的なトミー・ジョン手術からの復帰スケジュールを考えると、実戦で登板できるようになるのは2022年からとなるだろう。

 もし故障がなければ、1位指名の可能性が高かったことは間違いない。即戦力と言われながらもプロ入り1年目に一軍の戦力となる選手はごくごくわずかであることを考えると、2年目から勝負というのは決して遅すぎるわけではない。投手陣にある程度余裕のある球団が続けて抽選を外した場合に、思い切って山崎を1位に繰り上げるという選択をする可能性もないとは言えないだろう。

 山崎ほどのサプライズではないものの、大学生投手でもう一人1位指名された場合にどよめきが起きることが予想されるのが平内龍太(亜細亜大)だ。高校時代は山崎と同じ兵庫の神戸国際大付でプレーしており、当時から大型本格派右腕として注目を集めていた投手である。

 平内もまた大学では故障に苦しみ、今年3月には右肘のクリーニング手術を受けている。実戦に復帰したのは夏から。9月下旬に始まった秋のリーグ戦の開幕戦にリリーフで登板して負け投手となった。ものの、翌週には先発で昨年春以来となる勝利を挙げると、その翌日には抑えで登板して自己最速を更新する156キロをマークしている。ドラフト前、最後となるシーズンで復活を印象付けた。大学4年間での実績に乏しく、故障明けというリスクはあるが、スケールの大きさが評価されて、「外れ外れ1位」におさまるという展開も考えられないことではないだろう。

 一昨年は近本光司が外れ外れの1位で阪神に、昨年は小深田大翔と佐藤直樹が外れ1位で楽天とソフトバンクにそれぞれ指名された。これらの選手はリードオフマンタイプの社会人野手であり、事前の報道では上位で指名されると予想されていなかった。

 今年のドラフトでこのような指名が考えられるとすると、中野拓夢(三菱自動車岡崎)が候補となりそうだ。東北福祉大時代は3度のベストナインに輝き、社会人1年目の昨年もオフに行われたアジアウインターリーグで社会人日本代表として活躍している。スピードは近本、小深田ほどのものはないが十分に俊足と言えるレベルで、パンチ力のある打撃と堅実で強肩が光るショートの守備が持ち味だ。今シーズン、小深田が一軍で戦力となっているだけに、二遊間が手薄な球団が最初の抽選を外し、2位では指名できないと考えた時に繰り上がる可能性がありそうだ。

 最後に冒頭で紹介した吉住のような素材を重視した時の高校生投手も考えられるが、候補としては常田唯斗(飯山)と加藤翼(帝京大可児)の二人を挙げたい。常田は昨年夏に出場した甲子園では初戦で仙台育英打線に打ち込まれて早々に敗退したものの、この一年間で急成長を遂げた。スピードは140キロ台中盤とそこまで驚くようなものではないが球質が良く、新たに覚えたカットボールなどの変化球も高校生では見ないレベルのボールである。

 一方、加藤は伸びやかなフォームから投げ込む150キロを超えるストレートが魅力。甲子園で行われた合同練習会では登板直前に豪雨で室内練習場での投球となる不運はあったものの、勢いのあるボールは強い印象を残した。高橋宏斗(中京大中京)や山下舜平大(福岡大大濠)などの1位候補を外した球団が何としてでも高校生投手を確保したいと考えた時に上位の枠を使う可能性はある投手たちだ。

 日に日にドラフト関連の報道が増えており、多くは最初の入札で指名される1位候補に集中しているが、重要なのは抽選を外した後である。果たして外した時に各球団がどんな戦略をとってくるのか、ここで紹介したような選手の驚きの1位指名はあるのか、そのあたりにぜひ注目してもらいたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月22日掲載

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