トランプを支持する「Qアノン」とは何か 米国で陰謀論がはびこる理由
お手上げの状態
米国史上最も長く続く戦争を遂行する中で、連邦政府はかつてない規模に肥大してしまったからである。国民をテロから守るため、大量のテクノクラートが採用されたが、彼らは行政運営に不慣れだったことから、連邦政府の機能は分断されてしまい、時宜を得た効率的な運営ができなくなってしまったのである。
巨大化し、かつ細分化したことから、制御不能に陥りつつある連邦政府のシステムを前に、歴代の大統領や連邦議会の議員たちはお手上げの状態だった。
政府内の人間でさえ完全に把握できない制度を、一般の国民が理解できるはずがない。
ロビイストを雇う余裕がない多くの国民にとって、連邦政府はあまりに巨大で不可解な存在となってしまったと言っても過言ではない。
テクノクラートとトランプ大統領の支持層の間の溝が深いことも懸念材料である。テクノクラートにとって彼らの経済的な衰退は本質的な問題ではない。むしろ「政治的に不適切な彼らを教育しそれでも効果がない場合には処罰すべきだ」との考えが支配的である。さらにテクノクラートが自らの利益のために制度を変更する傾向が強まっていることにトランプ大統領の支持者たちがさらに反発を強める事態となっている。
ピュー・リサーチ・センターが2019年4月に実施した世論調査で「政府にある程度の信頼を寄せている」と答えた米国民は17%に低下したように、テクノクラシーによる連邦政府の運営に国民の多くが疑問の眼を投げかけている。
一方、国民の間には「政府は非常に合理的で、統合された、うまく運営されている」との認識が根強いことから、政府が無能さをあらわにすると、それを組織的な失敗だとはみなさず、意図的な失敗(権力者に利益をもたらし、多くの国民に害をもたらす失敗)の結果だとみなす傾向が強いとされている。「実際は誰も支配などしていない」という恐ろしい真実に向き合うよりは、「目に見えない力が国を支配している」と想像する方が目の前の惨状を受け入れやすいからなのかもしれない。
このように、「目に見えない勢力」を懲らしめてくれるトランプ大統領が拍手喝采を浴びる背景に、機能不全に陥った連邦政府の問題があるのだとすれば、構造的な問題が解決されない限り、米国内ではびこる陰謀論を抑止することはできない。
フリードマン氏は「米国の分断は2030年代まで続く」と予測しているが、その間に米国が再び「内戦」に突入するリスクを回避することはできるのだろうか。
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