「GoTo」で儲かるのは「二階幹事長」と「JTB」だけ? 現場はトラブル頻発で機能不全に
「私はネット通販もやってますけどね、もし通販で3週間も商品が届かなかったら、その店のレビュー、絶対『一つ星』になりますよ!」
と、国のGoToトラベル事務局を「最低ランク」に格付けするのは、「ゲゲゲの鬼太郎」のまちとして知られる、鳥取・境港の雑貨店店主である。
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この店、GoToトラベルの地域共通クーポンが使用できる対象店にならんと、9月の上旬に申請を出し、18日には承認されたという。しかし、取り扱うために必須のポスターやステッカーなど「スターターキット」がいつまで経っても来ない。事業スタートの10月1日を過ぎても、そして今も……。
「修学旅行生が結構来るんです。で、クーポンを使おうとするんですが、事情を話して“使えないよ”と。可哀そうですよね。これじゃ意味がない。こういう評判を聞いて、申請をやめよう、という店も周りには出てきているくらい……」
7月23日から始まっていた「GoToトラベル」事業にようやく東京が加わった今月1日。同時に、旅先の店で使える「地域共通クーポン」配布もスタートした。
ごくごくかいつまんで説明すれば、この事業は、国内旅行をした場合、宿泊費や交通費など「旅行代金」の50%分を国が補助する仕組み。補助の内訳は7割(全体の35%)が旅行代金の割引、3割(同15%)は旅先での買い物や飲食に使えるクーポン券を配る。例えば総額20万円の旅行の場合、7万円が割引となり、更に3万円分のクーポン券ももらえることになる。
明らかに「お得な」価格であるから、東京が加わって初めての週末となった今月3、4日は各地は人の渦。
〈東京「解禁」待ってた〉
〈東京にも「行楽の秋」〉
そんな見出しが新聞紙上で躍ったのである。
コロナ禍で瀕死の状態に陥った観光業界。それを救う「GoTo」事業――となれば、誠に喜ばしいが、現場を見れば、そこかしこでトラブルが勃発している……。
選手が審判をしている
トラブルは既に報じられているが、地域共通クーポン券を巡る混乱に集中している。
「うちは事務局へ9月24日に申請し、翌日には承認しました、と返事が来た。でも、肝心のキットがまだ届かないんです……」
と都内のカフェ店主も言うように、飲食店や小売店が申請をする→承認を受ける→しかし、スターターキットが届かない、というケースが各地で続出。
事務局に催促しても梨の礫(つぶて)、という点も共通していて、冒頭の雑貨店店主も、
「何度電話してもつながらないし、かかっても“担当に確認して折り返します”と言うだけで返ってこない。で、“じゃあもうクーポン受け取っていいか”と聞くと、“いいです”と言うからそうしたら、翌日には“ダメです”、その翌日には“紙のクーポンはダメ、電子ならいい”。その次の日は“確認を取っているので待ってください”。何だこれ、って。事務局も大変なんだ、と思って同情して“混乱しているんですねえ”と言うと、“混乱してません!”だって。きっと中はもうめちゃくちゃなんでしょう」
これと同様、トラブルが目立つのが、ホテルなどの宿泊施設。
ホテルでは、予め、事務局からクーポン券を取り寄せ、そこに対象の地域や期間を記したスタンプを押す必要がある。しかし、それを渡すべき客の宿泊当日になっても、事務局から券が来ないケースが続出。あるいは、券は来たが、スタンプも入ったスターターキットが届かず、隣のホテルに借りに行く、なんてことも。キットは来たが、アプリが作動しないケースもある。更には、
「うちのホテルは、クーポン券をかなり前に申請したのに9月29日と、直前になるまで届かなかった。それも酷いですが……」
とは山梨県内のさるホテルの支配人である。
「申請した500枚が届いた翌日、今度は頼んでもないのに5千枚どっさり届いた。仰天して事務局に電話してもつながらない。メールを送っても返事は来ない。返したくても返せないからまだあるよ。どうするの、これ。事務局のオペレーションは破綻しているんでしょうね」
むろんホテルでクーポンを受け取れない客は怒り心頭だ。
混乱の病巣である事務局は東京・西新橋に設置されている。国の委託を受けて事務局を構成しているのは、「ツーリズム産業共同提案体」。日本旅行業協会(JATA)、全国旅行業協会(ANTA)など業界団体に加え、公益社団法人の日本観光振興協会を除けば、JTBや、近畿日本ツーリストの持株会社・KNT-CTホールディングス、日本旅行、東武トップツアーズなど大手旅行業者がメンバーだ。企画競争の末に委託を勝ち取った彼らの実態は、
「構成団体が職員や社員を出向させている。中でも業界最大手、JTBの社員が中心を占めています」
と声を潜めるのは、さる大手旅行会社の幹部社員。
「しかし、評判は最悪ですよ。寄せ集めチームには手に余るのか、とにかく連絡や伝達が遅すぎる。GoToトラベルに東京が参入する際も、9月11日に国交大臣が記者会見で表明したんです。で、準備を進めようとしていたんですが、事務局からは“大臣はああ言ったけど、まだわからない”と連絡が来た。その後も連絡がないまま、9月18日、大臣が『本日正午予約受付解禁』と発表した後になってようやく連絡があったほど。ルールもしょっちゅう変えるから、我々は混乱しっぱなしです」
この事務局メンバー、国から出る日当が2万~3万円。月に20日働けば、40万~60万円超と、おいしい仕事だ。それぞれの団体にとっても、国がこの間の人件費を肩代わりしてくれるのだからこれもまたおいしい。
その枠組みの中で、
「事務局に加わる旅行業者は、どうも自らの会社に有利な仕組みで事業を運ぼうとしているように見えるんです」
とは、前出の幹部社員。
「典型的なのは、予算配分。事業予算は1兆3500億円。それを各旅行業者に割り振り、それぞれの業者がその額の旅行商品を売り切ったら終了となる。そして、その配分は昨年度の旅行の取扱額によって決められたんです。当然、JTBが一番で、事務局に入る大手会社がそれに続く一方、中小は少なくなりますよね。配分額を使い果たしたらキャンペーンは終わりですから、大手が最後まで残って独り勝ちになる、という構図が透けて見えます」
中小泣かせ、という意味では、加えてこう指摘する。
「この事業では、我々業者は、お客様から割り引いた代金をいただき、宿泊施設や交通機関には満額を支払う。その差額を後日、事務局から受け取る仕組みになっている。しかし、その差額が補填されるのが遅いんです。GoToがスタートした7月分の金もまだもらえていないくらいで。我々大手はまだ体力があるからともかく、中小の代理店などは日銭に困っていますので、資金繰りがショートしてしまう、という悲鳴はたくさん上がっていますよ」
そもそも、事務局に入った大手は、自然、GoToがどんな仕組みになるのかを先行して知ることができ、そのためのシステムを組む準備が可能。他方、中小は発表があって初めてそれを知るしかない。そこから準備しても、時すでに遅し。つまり、
「選手が同時に審判をやっているようなもの」(同)
コロナの余波で本当に困窮しているのは、中小の旅行業者。ここを優先的に救済しなければいけないのに、この構図ではむしろ高笑いするのは体力のある大手だ。
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